キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2022年1月号

2022年 年頭のご挨拶

あけましておめでとうございます。

キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様、また養成講習、更新講習実施団体をはじめとする会員団体、先生方、行政および関係諸機関の皆様には、日ごろより協議会の活動に一方ならぬご支援をいただいておりますこと、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

新型コロナウイルス感染症が世界中に大きな衝撃を与え、その影響が長期化しています。なかなか出口が見えない中にも、ワクチンの普及、治療薬の承認など、やや明るい兆しも見えはじめていますが、働く人への様々な影響は当面続くことになるでしょう。

私たちは人生において、このような世界的・国家レベルの大きな社会・経済的な変動を何度か経験することになりますが、それが私たちの生き方や働き方にどのような影響を及ぼすのか、想定することは簡単なことではないと思います。

一方、人生100年時代における職業人生の長期化、DXの急速な進展、働き方の多様化など、働く人のキャリアを中長期的な視点で考えていくことが必要となっています。

このような状況下において、昨年6月に厚生労働省から「働く環境の変化に対応できるキャリアコンサルタントに関する報告書」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19202.html)が公表されました。既に多くの方がご覧になっていると思いますが、非常に示唆に富む報告書だと思いますので、ぜひご覧ください。

同報告書においては、キャリアコンサルティングの更なる普及のための施策として、産業界・企業に対する働きかけとして、「セルフ・キャリアドックの更なる推進」など4点、労働者に対する働きかけとして、「ジョブ・カードの活用促進」など4点が提示されています。

さらに、その施策の推進を担うキャリアコンサルタントに求められるもの(継続的な学びの要素)として7点が提示されています。本稿では、この中から、①専門性を深化、実践力を向上させること、②多様な働き方や職位・年齢階層に応じたキャリア支援に精通すること、③企業内の課題解決に向けた提案力を発揮すること(組織への働きかけ)をテーマに、私たちはキャリアコンサルタントとして、どのように学び能力を向上させていけば良いかについて考えてみたいと思います。

① 専門性を深化、実践力を向上させること

私たちが専門性(活動領域や特定分野(業界・職種)に固有または共通的)を深化させ実践力を向上させるためには、自律的・持続的な学びが欠かせません。学びは「自ら学ぶ意識・意思を持って学ぶ」ことが基本だと思います。私たちキャリアコンサルタントは、自ら学ぶことの重要性を相談者に気づいてもらう役割も担っています。だからこそ、まず自らが自律的・持続的な学びを実践することが必要だと思います。

学びの場は更新講習や書籍、自主勉強会など多様にありますが、実践から学ぶこと、他者から学ぶことはそれ以上に重要なのではないでしょうか。自らの過去の職業経験、および現在の実践経験を振り返り、経験の意味付けを行い、強みや弱みを自覚し、今後のキャリアコンサルタントとしての役割に、どのように活かしていくのかを意識することが大切です。また、それぞれ特徴をもったキャリアコンサルタントが知識・経験を共有し、相互理解を深め、協働することにより、さらに学びは促進されるでしょう。

② 多様な働き方や職位・年齢階層に応じたキャリア支援に精通すること

私たちが多様な働き方や職位・年齢階層に応じたキャリア支援に精通するためには、今、実践現場で起きている状況を的確に把握し、適切に対処していくことが必要です。その状況は、個人の職業的発達段階(例えば、中年期の危機)、ライフイベント(例えば、育児や介護)、メンタルヘルスに関する支援が必要な状況など多様です。上記①で述べたように、まずは実践からの学びが不可欠です。

しかしながら、より的確な状況把握、適切な対処を進めるためには、経験からの学びだけでは弱いのではないでしょうか。より適切で効果的な状況把握、対処を実現するためには、少なくとも基礎的、さらには高次の専門知識(キャリア心理学、生涯発達心理学、産業・組織心理学等の知識・知見等)を修得することが必要です。実際に現場で起こっている事象を、理論・アプローチの視点から理解し、応用することができる智慧へと昇華させることができれば、自らのキャリアコンサルティングの自信へとつながります。試験対策としての理解ではなく、実践的な理解として修得することが求められていると思います。

もう一歩踏み出すとすると、日本における最新の研究知見にも興味を持ってみてください。はじめはとっつきにくいですが、少し理解が進むと面白いです。特に、実践的研究者が行ったインタビュー調査に基づく研究は、とても分かりやすく、実際の現場感覚を的確に反映しています。

③ 企業内の課題解決に向けた提案力を発揮すること(組織への働きかけ)

私たちが企業内の課題解決に向けた提案力を発揮(組織への働きかけ)するためには、まず、所属(担当)している組織の特性を把握し理解する必要があります。そのためには、人事・人材育成担当部門と密接なコミュニケーションを図り、人事・人材育成戦略や方針・施策について対話し、理解をさらに深めることが必要です。そして、経営者、人事・人材育成担当者の専門性に対して、人事関連制度、人材育成、組織活性化等について、新たな視点(キャリアコンサルタントとして)から対等に提案できる程度の力を養い、頼られる関係を構築することが必要となります。結果として、経営者層へのアプローチなど企業への提案力、人事・人材育成担当部門との協業が実現するのではないでしょうか。

なお、キャリアコンサルタントの多くの方は、個の視点での支援を志向する方が多いと思います。組織視点からのキャリア支援に対する抵抗感や嫌悪感など葛藤があるでしょう。しかしながら、そこで働く人はその環境の中で働かなくてはならない、ならば、個の視点での支援とともに、その環境を少しでも改善するための知恵を絞り努力することも大切なのではないでしょうか。

個と組織の論理の両立・調和を目指し葛藤し実践する中で、少しずつ解を見つけ、一歩一歩前進していくことが求められていると思います。

以上、これらの学びを通じて、キャリア支援の質を向上させていくことを目指し、みなさまとともに切磋琢磨していきたいと思います。

最後に、キャリアコンサルティング協議会は、指定登録機関、登録試験機関、技能検定指定試験機関として行政代行の役割責任を担い、クライアント、国、社会からの高い期待に応えて、一層信頼に足る機関として、今年も最大限の努力をしてまいります。一方、激変する環境の中で奮闘されているキャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様に対するご支援と、質の高いキャリアコンサルティングの一層の普及啓蒙に努めてまいります。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

キャリアコンサルティング協議会 会長  岡田 昌毅

キャリアコンサルティング協議会 会長 岡田 昌毅

筑波大学人間系教授
人間総合科学学術院副学術院長
国際産学連携本部働く人への心理支援開発研究センター長
キャリアコンサルティング協議会会長 (2021年6月より)

新日本製鐵株式会社(現、日本製鉄株式会社)、
新日鉄ソリューションズ株式会社(現、日鉄ソリューションズ株式会社)に
おいて、電気設備技術者、人材育成担当を20数年間経験。
2000年筑波大学大学院教育研究科カウンセリング専攻カウンセリングコース、
2007年名古屋大学大学院教育発達科学研究科心理発達科学専攻修了。
博士(心埋学)。専門は「キャリア心埋学」「キャリア・カウンセリング」。

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