キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2022年4月号

キャリアコンサルタントのウェルビーイング

【 どんなキャリアを構築するか・・・ 】

はじめて人生100年時代と聞いた時、皆さんはどのようなことをイメージされたでしょう?
約100年前に生まれた人が100歳まで生きる確率はわずか1%だったと言われており、英国のリンダ・グラットン教授によると2007年に日本で生まれた子どもが107歳まで生きる確率は50%と推測されています。人生100年時代と聞いて「長く働かなければいけない・・・」とネガティブに受け止める人も少なくないでしょう。しかし、環境変化やテクノロジーの進化等、新たな技術革新にワクワクしたり、社会に長く接続することで活き活きと暮らしたり、お子さんやお孫さんの成長を長く見守れたり、更には私たちの働き方や価値観も多様化する中で、従来よりも自分らしく生きるチャンスととらえることが出来るのではないでしょうか。変化の激しい社会環境において、人生100年時代をポジティブに捉えるのか否かはその人次第ですが、自分らしくどんなキャリアを構築するかを是非、前向きに考えてみたいですね。

けれども一方で、長寿化に伴う長い老後の生活設計をどうするかという課題に目を向けなくてはなりません。我が国では、少子高齢化による就業者の大幅な減少に伴い、人材不足を要因とする様々な問題が経済活動に悪影響をもたらしています。更に誰もが活躍できる多様性のある社会の実現と、グローバル化やI T技術によるスピーディー且つ不確実な環境の大きな変化に対応する働き方への適応が求められています。

【 キャリア形成と能力開発 】

そのような社会情勢において、企業の在り方、いわゆるエンプロイメンタビリティ(働き手から選ばれる魅力)と労働者の在り方、エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)が増々重要となり、またキャリアの主導権も組織から個人へとシフトし、労働者の主体的なキャリア形成が一般的になっていくでしょう。日本型のキャリア形成においては、定年まで一つの会社で勤め上げる単線型キャリアパスから、複数のキャリアを並行する複線型のキャリアパス(パラレルキャリア)へと変化してきています。複数のキャリアを並行するということは、新たな知識やスキルの習得、価値観のアップデート、ネットワークの構築など資源(無形資産)を広く獲得することが求められます。その結果、企業では近年社員の自律的なキャリア形成や自己啓発を支援する動きが活性化しています。しかし、令和2年度「能力開発基本調査」において、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする企業が、全体で79.2%との結果となっています。その内訳は「指導する人材が不足している」が最も多く、次いで「人材育成を行う時間がない」という結果が出ております。そのことから鑑みても企業任せではなく、個人の主体的なキャリア形成の必要性を認識することができます。リクルートワークス研究所の調査においても、自己啓発を実施した人では「仕事の質」「年収変化」「仕事の満足度」何れにおいてもポジティブな効果が高くなるという結果が現れています。自らの能力の向上を通して、より高度な仕事を行うことが可能となることから、収入が増加し、仕事への満足度が高まっていることが伺えます。

【 人的ネットワークと潜在情報 】

そこで、私たちキャリアコンサルタントにおいても、変わりゆく企業や労働者を支援していく能力をより一層高めていくことが求められており、常日頃から自己研鑽に励み自らの能力を磨き上げていかなければなりません。その手法の一つとして人的ネットワークによる情報収集も非常に重要だと考えます。現在、私たちは膨大な情報に囲まれて生活していますが、大切なことは、顕在化されている大量の情報ではなく、人との接触により得られる潜在化している情報であると言えるのではないでしょうか。私自身の仕事はまさにこの人との繋がりに尽きると言えます。最近、資格取得をされたばかりのキャリアコンサルタントの皆さんに「どのように仕事を探すのか」と尋ねられることがよくあるのですが、人との繋がりによる価値ある情報収集と、損得勘定を超えて「自分が相手に対して何ができるのか」と考えて行動することも時には必要であるとお答えしています。人的ネットワークを強化することで情報の質を高めることが大切です。人的ネットワークの豊富さは人生の豊かさにつながると言われているようにとても価値ある重要な資産なのです。但し、人との繋がりは発掘よりも維持に労力を要します。こまめに連絡を取ったり、気にかけたり、接触したりすることで、好感度も高まり、単純接触効果が現れます。特に相手が困っていることをサポートしたり、率先して手伝ったりすることで返報性の原理が得られます。お互いに助け合える対等な関係を築くことができるのです。

【 ウェルビーイング 】

最近では、「ウェルビーイング理論」が注目を浴びています。「ウェルビーイング」とは、肉体的・精神的・社会的においてすべてが満たされた幸福な状態という意味です。その理論では、幸福には次の5つの構成要素が必要だとされています。①人生を楽しんで過ごすこと、②何か夢中になれることをもつ、③人との繋がり、④自分の人生に意味や意義を見つける、⑤目標を持ちその達成を目指し取り組むこと。従来とは異なる100年時代での新たなキャリアプランを立てていく為にはいずれも重要な項目だと私は考えています。

人生100年時代において、相談者が幸福度を増大させ、人生をより豊かに充実させていくためにキャリアコンサルタント自らが、ウェルビーイングを達成すべく、自分の仕事の意義をしっかりと言語化し、人と人の繋がりをこれまで以上に重視する必要があるでしょう。そして、自身が自分の仕事に夢中になるためにも、自分なりの目標を定め、相談者と伴走しながら中長期的な視野でサポートできるようなスキルを身につけることがこれからのキャリアコンサルタントにとってとても大切だと感じています。環境の変化が著しい今のような時代だからこそ、相談者を適切に支援していくべく、キャリアコンサルタント自身のアップデートを含めた自己研鑽を欠かさないようにしていきたいものです。

當銘 裕美(とうめ ひろみ)

當銘 裕美(とうめ ひろみ)

ACCN 九州・沖縄支部 副支部長 2級キャリアコンサルティング技能士、国家資格キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技法インストラクター(若者・女性・中高年)、キャリアシフトチェンジインストラクター、日本スクールコーチ協会 コーチングトレーナー

沖縄県出身。化粧品会社、マスコミ業界を経て平成12年に独立。現在は一般社団法人の代表並びに人材育成企業の役員を務める傍ら、キャリアコンサルタントとして幅広く活動。企業向けのセルフ・キャリアドックの導入支援、キャリアカウンセリング、人材開発研修、並びに教育機関でのキャリア教育を中心としたプログラム開発、キャリア形成支援、更には若者から高齢者まで就職支援等に携わっております。また、平成29年度より各都道府県に設置された、「地域両立支援推進チーム沖縄地域」の活動を通し、病気と仕事の両立支援に向けて企業の環境整備等を含めた支援にも奮闘する。「キャリアコンサルタントは天職」と自負し、職業満足度も高く、充実した日々を送っている。キャリアコンサルタントとしての経験を積むごとに、幅の広がりと厚みを目指した自己研鑽の重要性をより一層感じ、精力的に自己啓発にも取り組む。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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