マンスリーコラム
通信制高校で働くキャリアコンサルタントが感じていること
高校生の時期は、卒業後の進路を見据え、自分の将来をこれまで以上に具体的に踏み込んで考えていく時期ではないかと思います。周りからも「これからどんな進路を進むの?」「将来どうなっていきたいの?」と聞かれることも増えるのではないでしょうか。
私自身、10代のころに、明確な将来への理想もないままに進路選択をしてきたということがあり、今になって当時の自分を振り返ると、じっくりと将来に対する思いを誰かに聴いてもらい、自分と向き合える機会を必要としていたなぁと感じます。
私は、大学卒業後に、教育系の民間企業で働いたのち、より高校生と距離の近い現場で働きたいという思いから、キャリアコンサルタントとして高校生と関わる仕事をするようになりました。現在、通信制高校の教員として働く中で、キャリアコンサルタントの資格を生かし、進路指導担当としても生徒に関わっています。
そんな私が、通信制高校に通う高校生と日頃関わる中で感じることをお伝えします。
当然のことかもしれませんが、私たちキャリアコンサルタントは、クライアントに身を委ねていただき、語りたいことを安心して語っていただけるよう「関係構築」を行うことが大切です。通信制高校で勤務していると、その「関係構築」にはとても地道な積み上げが必要だと感じることが多々あります。
社会全体ではまだまだ「キャリアコンサルタントって何をする人?」と具体的なイメージを持ちにくい方が多く、高校生も同様にキャリアコンサルタントのことを知らない方が多いです。仮に、私のことを「進路相談に乗ってくれる担当の人」「キャリアの専門家」と認識したとしても、それだけで高校生たちが心のうちを話して相談しようという気持ちにはならないと思います。キャリアの専門家だから相談しよう!というよりも、この人なら相談できる!という安心感・信頼が、キャリアコンサルタントへの進路相談を活用するか否かに大きく影響するのではないかと思います。
全日制高校よりも登校回数が少ない通信制高校の生徒に対し、キャリア支援を行う立場の心がけとして、生徒とコミュニケーションをとる一つ一つの機会をとても大切にしています。
高校生たちが通信制高校を選択する目的は様々です。例えば、家庭の事情のため、学習のペースを考慮したため、高卒資格の取得のため、外部の活動と学業を両立するためなど、十人十色です。また、勉強や、将来の進路に対するモチベーションも、一人一人異なります。そのため、日頃から個人の近況に寄り添って、受容と共感の姿勢で、ラポールを構築していくことを心がけています。
例えば、課題を提出しに登校してくるタイミングで、家族との関係の話や、アルバイトの話を切り口に、出来事だけでなく、表情を見ながらどんな思い(感情)で過ごしているのかなどを聴くようにします。この人は事務的に接しているのではなく、「自分を気にかけてくれている」、「興味を持ってくれている」、「正論を振りかざしたり、決めつけたりせずに、まず自分の話を聞いていてくれる」という大人への印象は、小さな習慣や、さりげない会話から積み上げられていくものだと感じます。
なぜ、ここまで繊細な配慮と共に「関係構築」を意識するのかというと、そもそも通信制高校に通う生徒の中には大人への不信感・警戒心を抱いている生徒も少なくないからです。
日頃のコミュニケーションの機会を大切にしていても、なかなか学習・生活での困り事や感じていることを私たち教員の前では言葉にしない高校生も多くいます。もちろん、無理に自分のことを話さなければいけないわけはありません。しかし、過去になんらかの事情で大人への不信感を抱いていたり、家庭内で話を聞いてもらえる環境になかったりするならば、社会に出て働くまでに、少しでも人間関係の不安な部分を拭えるように、キャリア以外のメンタルケアなどの伴走的な関わりが必要なのではないかと感じます。
授業態度や課題提出の件で、生徒に指導しなければならない場面においても、教員が一方的に叱って指導することが、今この場では正解なのだろうか?と考えることがあります。頭ごなしにダメ出しや指導をするのではなく、まずは本人の事情に耳を傾けて、考えを受け止めるように関わり、必要なことはその後に伝えるようにすること。ちょっとした意識なのですが、生徒に与える印象は大きく変わるはず。100人以上の生徒たちの性格をそれぞれ考慮しながら、上下の関係ではなく、対等な関わりを、教員という立場からどのように日頃のコミュニケーションで実現できるかを、入念に考えながら接している自分がいます。
実際にこのような地道な「関係構築」を続けていくと、高校生たちの「自分を主語にした語り」が増えていき、教員としても、キャリアコンサルタントとしても、生徒の必要とする支援をキャッチしやすくなっています。また、生徒のニーズに合った学習活動やワークを提供することに役立ち、いざ今後の進路を決定していく際の相談援助もスムーズに行えるようになったと感じています。
最後になりますが、教育現場で働く者として、もしキャリアコンサルタントがチームとして教育現場に携わり、高校生のキャリア支援することが当たり前になったとしたら、若年層がより日常的に自分の経験や感情と向き合う機会を得、多様な生き方に触れることができ、納得のいくキャリア開拓・選択の支援が実現できるのではないかと考えることがあります。教員やスクールカウンセラーとの役割分担を行い、キャリアコンサルタントが教育現場でさらに活躍できる社会になることを願っています。
コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)
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