キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2023年7月号

女性の更年期とキャリア

更年期という言葉は最近はメディアでも目にするようになりましたが、なぜここで?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
女性の約8割の方が更年期に何らかの症状を感じるとされています。しかしながら一般に女性の更年期は45歳から55歳頃で、ちょうど仕事が忙しくなりストレスも多かったり、親の介護や子供の受験・巣立ちを迎えるなど人生の折り返しの時期でもあります。そのため不調を抱えながら困っていたり、管理職昇進を諦めるケースもあるのです。私は更年期が働くことに影響していると実感した自分自身の経験から、キャリアコンサルタントとして更年期とキャリアについてサポートできればと活動してきました。更年期についての理解が、男性女性問わずキャリアコンサルタントの皆さまの支援のご参考になればと思い、更年期の知識の一部とこれまでの私の活動についてご紹介したいと思います。

◆更年期とは
女性は一生の間に女性ホルモン(エストロゲン)分泌の変化で「月経を迎える時期~思春期」「月経のある時期~性成熟期」「月経を終える時期~更年期」「月経を終えてから~高齢期」とライフステージが移行します。エストロゲンの分泌量は40歳くらいから徐々に減少し、やがて平均50歳頃に閉経を迎えます。この閉経を挟んだ前後5年ずつの約10年間を更年期といいます。エストロゲンの分泌の低下が急激なため、自律神経が乱れて急に汗をかく、動悸、めまい、寝付きが悪い、眠りが浅い、すぐイライラする、くよくよしたり憂うつになる、頭痛、だるい、などさまざま症状が出てくるのです。それらがひどくなって仕事や家事など日常生活に支障をきたすものを「更年期障害」といいます。
症状も時期も期間も個人差が大きいことが、本人だけではく周りの人にも更年期の理解を難しくしているのです。本人は、不調の原因が更年期によるものと思わなかったり、病気なのか分からなかったり、中には各科をめぐって適切な治療にめぐりあえないこともあります。しかし一方で更年期なんて何も感じなかったという女性もいます。それぞれの感じ方の違いのために女性どうしでも親子でもわかり合うことが難しいのです。

◆更年期とキャリア
現在、全労働者の約45%にあたる約3,000万人が女性、このうちの約25%が「更年期世代」です。早期退職が多かった時代と比べて更年期世代の働く女性は増えています。更年期の不調には睡眠障害や頭痛、物忘れなどもあるため、仕事でミスをしたり効率が落ちるといったパフォーマンスに影響を与えることもあります。そればかりでなく本人が辛くなって、雇用形態の変更や労働時間の減少、昇進の辞退、離職を選択することもあります。更年期症状による離職は推計46万人、その経済損失は年間およそ4200億円にもなるほどです(日本女子大学 周燕飛教授の分析)。
更年期障害はホルモン補充療法や漢方薬などの治療方法がありますが、更年期の不調に対して何も対処しない人が多いのです。ヘルスリテラシーの高い人の方が受診や服薬などの対処をする傾向は高くなります。更年期の症状でつらい時期があっても乗り越えて働き続けるためには、更年期について知っておくこと、自分の心や身体の変化を知り必要に応じて適切な治療を受けることが大事な対策です。
職場で更年期の問題を抱えた時の対応では「誰にも相談していない」が最も多いのです。更年期は恥ずかしいもの、隠しておきたいものであって、面談で話題にする対象とは考えていない場合が多いかもしれません。また職場の人にとっても更年期には触れてはいけないものという思いがあるのではないでしょうか。

◆更年期×キャリアの取り組み
私は働く女性を対象に更年期セミナーを開催しています。更年期の知識や対処方法をお伝えする他、ライフキャリアの視点から考えるワークも取り入れています。更年期の症状を起こす主な原因は女性ホルモンの減少による「身体的要因」ですが、それ以外にも几帳面な性格などの「心理的要因」、子供の自立、親の介護や死、仕事、定年・老後に向けての変化に対する不安などの「環境要因」が複雑に絡みあって引き起こされます。更年期の症状だけに目を向けるのではなく、現在やこれからの状況を考えることで客観的に捉え直すきっかけになればと思います。またなかなか更年期について話題にできない、共感してもらえないという方も多いため、講座によっては参加者同士で話せるような工夫も取り入れています。その他の活動として更年期について自由に話し相談できる場の提供など試行錯誤しています。

女性がいきいきと働き続けることができるためには、女性のみならず一緒に働く人たちが、更年期や、更年期とキャリアの関係について理解することや組織全体での取り組みが欠かせません。管理職、人事労務担当者、現場のリーダー層、従業員の方々を対象に、女性の健康に対して組織としてきちんと向き合うことで女性が長く活躍できる職場づくりにつなげていただくための講座も行いました。男女問わずお互いに声かけをしやすい環境になるよう職場全体の理解を広げていく取り組みは大事であると実感しました。
厚生労働省は2022年に初の実態調査を実施しました。公的支援を求める声が高まっていることから現状把握を進めて支援策を検討することになっています。今後、更年期症状のための休暇制度を導入する企業が増えることや、従業員のヘルスリテラシーを高めると共に、職場全体での理解を促す企業内研修の取り組みが進むことを期待したいと思います。

また、ACCN東京支部では2021年度のキャリアマンスのイベントで「キャリアコンサルタントとして知っておきたい更年期世代への支援ポイント~女性が生き生きと働き続けるために~」を開催しました。前半は「更年期を知る」で個人の経験に寄らない正しい知識を身につけるための情報提供、後半は「「更年期」×「働く」をキャリア支援者として考える」として女性の更年期がキャリアに与える影響を考えるワークや、事例を使ってキャリア支援者としてできることを考えるワークを行いました。そして各自のキャリア支援のフィールドで何ができるか、求められていることは何か、など今後の課題をグループで考えました。ご参加者の満足度は高く、"グループワークでの気づきは大変貴重なものになった"、"更年期も相談支援の対象になる"、"明日にでも相談の実務に役立つ内容だった"などの感想をいただきました。

最後になりますが、男性にも更年期はありますので少し補足したいと思います。男性の場合、本来はゆるやかに低下していく男性ホルモン(テストステロン)が、ストレスや何らかの要因で急に低下することによって更年期の症状が出ます。笑わなくなった、機嫌が悪くイライラしている、筋力低下、太った、集中力の低下、仕事の段取りが悪くなったなどの変化が現れます。男性更年期はいつ起こるかいつまで続くか分からず、急に人格が変わり周りの人が困惑することもあります。更年期症状の経験者は40才以上の6人に1人くらいですが、女性の統計と同じく誰にも相談しない人が多く、受診する人も全体の1~2割程度と、多くの人が治療せずに1人で苦しんでいるようです。やはりまずは本人も周りの人も男性更年期について知っておくことが大事です。

更年期の症状は働くことに影響していることなどをご紹介してきました。私はキャリアコンサルタントだからできる医療機関とは違ったサポートがあると考えています。更年期を乗り越え元気に働くことができるために、更年期を個人の問題にしてしまうのではなく、職場全体の課題であるという理解を広げていければと思います。また、キャリア支援者の方々へは、女性が管理職昇進を断る理由の中に、もしかしたら更年期の不調が隠れているかもしれないという視点などを伝えていくことで、相談支援の現場に活かしていただけるものと思っています。私の活動はまだ始まったばかりですが、キャリアコンサルタントだからできるサポートを探求していきたいと思います。ぜひ皆さまからのご意見やご助言などお寄せいただけたらと思います。

後藤 彰子(ごとう あきこ)

後藤 彰子(ごとう あきこ)

ACCN東京支部 副支部長
国家資格キャリアコンサルタント
公益社団法人 女性の健康とメノポーズ協会 女性の健康経営推進員

大学卒業後、企業で人事、研修の企画・運営、研修プログラム開発、セミナー講師などを経験。子育て期間中は子育て支援団体の設立・活動に参加、PTA役員、人形劇、図書ボランティア、学習塾など地域の子育て環境や教育支援に取り組む。現在は人材サービスを行う会社にてキャリア形成支援やセカンドキャリア支援に携わる。神奈川県在住。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 コラム担当)

キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら


マンスリーコラム一覧へ戻る