マンスリーコラム
「 AIしていますか?」
本記事のタイトル、「AIしていますか?」を皆さんはどう読んだでしょう。おそらく多くの方が人工知能であるAIを思い浮かべたでしょう。半分正解です。もう一つの意図は「あなたはクライアントを愛(AI)していますか?」です。キャリアコンサルタントとしての相談者への愛のカタチを尋ねています。AIが進化する現在において、キャリアコンサルタントとAIについて考えてみました。
キャリアコンサルタントに「AI(人工知能)」は必要?
私は現在、ACCN中国四国支部の支部長のお役に当たっております。支部長の仕事の一つにイベント時の挨拶があります。この挨拶には何を話せばよいのか、少し困っておりました。そんな時、ふとした拍子に「AIに相談してみよう」と思い立ったのです。対話型の生成AIを活用し、何度かやり取りを交わす内にいい感じの挨拶文ができたのです。「これは使える!」と思いました。
その後は、イベントのタイトル決めや告知文の作成も手伝ってもらうようになりました。実はこのコラムも......。
ある日、キャリアコンサルティング面談前のクライアント情報を確認していると、IT講座の選択に迷っているとのことでした。私には専門知識がないため、エンジニアとAIに相談。するとどちらも同じ講座をオススメしてくれました。エンジニアの方は300字程度で、AIからはそれぞれのプログラミング言語の特徴を記した上でのオススメの理由が3000字程度で。
これにより私自身の専門知識不足による支援の不安がなくなり、クライアントの選択の背景にある心情に寄り添う支援ができました。
私は毎月オンラインの事例研究会に参加しています。キャリアコンサルタントとクライアントの逐語録のやりとりを読んで、グループで話し合い、自身の心のゆらぎや他者の視点を学びます。ある日、事例研究会に参加できなかった際に「AIと一緒に勉強出来るかな?」と思って、AIに事例を読み込んでもらい質問をしてみました。すると答えてくれるのです。クライアントの長所や短所、面談での悩みや課題、望んでいることや、キャリアコンサルタントの良くなかった関わりへの指摘も。
さらに「あなたがこのクライアント役になってロールプレイの練習はできますか?」と聞いてみると、できるというのです。現時点における回答の精度はそこまで高くはないと感じたものの、今後の可能性には大いなる期待を感じます。
クライアントへの「AI(愛)」のカタチは?
キャリアコンサルティングにおいて、クライアントに寄り添い、彼らの気持ちを理解しようとする「人間的感性」は欠かせません。キャリアの選択や将来の展望について考えるとき、多くのクライアントは漠然とした不安や自信のなさ、時には失望感を抱えています。そうした心の内を打ち明け、真剣に自分の未来について話すためには、安心して話せる信頼関係が不可欠です。
信頼関係があるからこそ、クライアントは自身の中に渦巻くさまざまな感情を吐露するようになります。そしてキャリアコンサルタントは彼らの内面的な葛藤に耳を傾け、その気持ちに共感し、時には励ましを与えながら、前向きに進む力を引き出します。このような「心のサポート」は、AIにはできない、まさに人間だからこそできる支援です。
一方で、クライアントの課題に応える過程で、AIの方が力を発揮する場面もあります。たとえば、AIは大量のデータを瞬時に分析し、クライアントのスキルや経験を基に適切なキャリアの選択肢を提示することが得意です。自己評価を行うためのAIツールを使えば、クライアントは自分の強みや価値観を明確にしやすくなり、それを基にキャリアプランを考えることができます。特定の業界や職種の将来の需要予測や、地域ごとの雇用動向に関する情報をAIから得ることで、クライアントに対して現実的な選択肢を提示できます。(どれも適切な学習が必要ですが)
私はキャリアコンサルタントがAIを活用した方がいい、と声を大にして言いたいわけではありません。キャリアコンサルタントとして、目の前のクライアントに『愛をもって関わる』とはどういうことかを考えてみてほしいのです。
思うに、人間にしかできないことは何か、AIにしかできないことは何か、などの定義づけはどうでもいいのです。クライアントにとって大切なのは「今の自身の課題解決に役立つかどうか」です。つまり、クライアントへの本当の愛とは、キャリアコンサルタントが有するあらゆるリソースを活用して、「役に立つ」ことではないでしょうか。
自身の傾聴力と知識、経験、直感などの人間力で面談に挑むことがクライアントへの最善の関わりである、そう考えるならば、それがその人のクライアントへの愛のカタチなのでしょう。AIでも上司でも猫の手でも何でも使ってクライアントを支援したいと思うならば、それもまた愛のカタチ。キャリアコンサルティングに正解がないのと同じく、クライアントへの愛情表現にも正解はないのです。それが人間である我々が提供するキャリアコンサルティングの価値なのかもしれません。
あなたは今後どうAIしていきますか?
「AIしていますか?」という問いは、キャリアコンサルタントにとって自己内省と可能性の探求を促す問いかけでもあります。これまでの経験や人間的感性を大切にしつつ、新しい時代のツールであるAIをどのように自分の仕事に活かしていけるでしょうか?
AIを使うことで得られるデータや分析結果を、単なる数字としてではなく、クライアントの人生を彩るための材料としてどう活用できるかを考えてみてはどうでしょう。そして、クライアントの気持ちに寄り添いながら、AIを使って彼らの可能性をさらに広げていくために、自分自身に何ができるかを考えるきっかけになれば幸いです。
時代が進化し、AIがますます私たちの生活や仕事に浸透していく中で、キャリアコンサルタントとしての役割も変わっていくでしょう。しかし、その中で変わらないのは、クライアントと真摯に向き合い、彼らの人生をより良くするための手助けをしたいという思いです。その思いを持ち続けながら、クライアントにとってより有益な存在であり続けるための自己研鑽を続けていきましょう。
キャリアコンサルタントのあなたにとって「AIしていますか?」という問いかけが、未来を切り拓く新たな一歩となりますように。
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