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マンスリーコラム

2025年4月号

最近の若者はメンタルが弱くなっているのか?

「最近の若者はメンタルが弱い」といった声を聞くことがある。しかし、それは本当なのだろうか?キャリアコンサルタントとして、若年層のメンタルヘルスを考える際には、単なる主観ではなく、発達課題や時代背景を踏まえた視点が求められる。

1. 若者の発達課題と環境の変化

発達心理学の観点から見ると、青年期(1825歳)は「アイデンティティの確立」の時期とされる。この時期には自己理解を深め、社会的役割を模索しながら、自立に向けた準備を進める。しかし、現代の若者は、このプロセスにおいて多くの困難に直面しているようである。

たとえば、VUCAの時代と言われる昨今、終身雇用制度が揺らぎ、キャリアの不確実性が増す中で「正解のない選択」を迫られる機会が増えた。また、SNSの普及により他者と比較しやすくなり、自分に対する必要以上のプレッシャーを感じる若者も多い。特に「過度に失敗を恐れる傾向」や「常に評価される社会」が、彼らのメンタルに影響を与えている。

具体的には、SNSを通じて「リア充」なライフスタイルが可視化され、自分が取り残されているのではないかという不安を抱く若者が増えている。また、アルバイトや就職活動の際にも、即戦力を求められる傾向が強まり、試行錯誤の余地が少なくなっている。これにより、自己効力感が低下し、挑戦すること自体に躊躇する若者が増加しているのではないか。

少子化の影響も無視できないと思われる。少子化によって家庭内での期待が一人の子どもに集中し、プレッシャーが大きくなっているケースが増えている。かつては兄弟が多い中で、一人に対しての親の関りが薄かった時代もあった。今までは分散されていた親の愛情が、少子化により、一人っ子家庭の場合は、一人の子に集中することで、過保護な親のもと、叱られたことがない若者が社会に出てギャップに苦しんでいる。中には愛情過多による歪んだ自己愛が他罰、他責的な思考を生み出しているのではないかと感じることも多々ある。

2. 若者のメンタルが「弱い」のか?

「メンタルが弱くなった」と感じる背景には、若者が感情やストレスに対して敏感になり、それをすぐに表現しやすくなったことも関係しているのではないかと思われる。 過去の世代は、「我慢が美徳」とされ、メンタルの不調を表に出すことが少なかった。しかし、現代ではメンタルヘルスに関する意識が高まっているせいか、自身のメンタルの不調をオープンにしやすくなったのではないかと考えられる。

また、近年の研究では、若者のメンタル不調の増加は社会環境の変化による部分が大きいとされる。先に述べた少子化の影響や、コロナ禍を経験した世代は、対面での交流機会が減り、孤独感や不安を感じやすい状況に置かれていた。そのため、メンタルの問題を抱える若者が増えたのは「弱くなった」というよりも、環境要因によるストレスの増大が影響していると考える視点も持つべきだろう。

3. 上司はどのように指導・育成すべきか

若者のメンタルヘルスに配慮しながらも、職場での成長を促すために、上司はどのような指導・育成を行うべきだろうか。私自身が企業のコンサルティングの中で推奨している一例を紹介する。

具体的には、

  • 心理的安全性の確保: 失敗を許容する文化を作り、若手が挑戦しやすい環境を整える。
  • フィードバックの工夫: 叱責ではなく、具体的、またはポジティブなフィードバックを意識し、成長のポイントを具体的に伝える。
  • 適切なストレス管理の支援: 過度な業務負担を与えず、またコンフォートゾーンに留まりすぎることのないよう、チャレンジを支援しメンタルケアを含めた指導を行う。
  • 対話の機会を増やす: 定期的な1on1ミーティングを行い、悩みや不安を聞く時間を設ける。

上司自身も、現代の若者との価値観の違いや指導方法に悩み、ストレスを感じることが多い。例えば、「自分が若い頃はこうだったのに、なぜ今の若者はこんなに弱いのか?」といった疑問を持つこともあるだろう。 「ふつう」、「あたりまえ」「常識だ」等の言葉はその価値観を象徴するアンコンシャスバイアスのワードでもある。自分のあたりまえを相手に一方的に押し付けになってしまうと、時にはハラスメントにつながったり、互いの関係性の悪化となることもある。

注意したいのは、自分の「あたりまえ」は自分にとっては大切な経験から来る価値観であり、その人にとっては正義である。しかし私たちは時として、自分の当たり前が皆そうであるものであると思い込んでしまうことで、トラブルに繋がってしまいかねないということを知っておく必要がある。

そのようなギャップを埋めるためには、上司自身も自身のアンコンシャスバイアスを振り返り、メンタルヘルスや若者の価値観について学び、一方的なコミュニケーションではなく、双方向なコミュニケーションを実践することが求められる。

4. まとめ

現代の若者は、過去の世代とは異なるストレス環境に生きている。しかし、それを「弱さ」として捉えるのではなく、「変化への適応が求められる時代背景」として考えることが重要ではないか。

職場においては、上司が心理的安全性を確保し、適切な育成方法を取り入れることで、若手社員が安心して成長できる環境を作ることができる。また、上司自身も変化する環境に適応し、柔軟な指導方法を取り入れることが求められる。

キャリアコンサルタントとしては、こうした職場の創りを支援し、上司と若手社員の双方がより良い関係を築けるような取り組みを促進することが重要となる。

私自身も22歳の子を持つ親である。日々、今回書いた内容を自分自身に戒めながら、若者に対する違和感と闘っている...。

寺田 陽子(てらだ ようこ)

寺田 陽子(てらだ ようこ)

ACCN中部支部 支部長 
ヒューマングロース株式会社代表取締役
1級キャリアコンサルティング技能士、シニア産業カウンセラー

メンタルヘルス、コーチング、ハラスメント、 組織活性化、キャリアマネジメント、女性活躍推進、コミュニケーション、リーダーシッププログラム、叱り方などのプログラムを企業のニーズにカスタマイズして実施。組織で働く人々が活き活きとその人らしく働けるよう、 組織や個人に対してのアプローチを行っている。 

コラムの感想等はこちらまで(協議会 コラム担当)

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