2025年7月号
企業内キャリア支援の軌跡
~企業内キャリコンとして~
◇ 企業内キャリア支援の厳しい船出
私は、社会人になってから一企業で40余年勤務している。
11年前に受け取った人事への異動辞令は、営業系企画スタッフとして20年仕事をし、このまま進んでいくのだろうとぼんやり考えていた私にとって、人生最大のキャリアショックであった。あまりにも想定外の出来事に「このままでいいのか」「どうしたら貢献できるのか」「私の存在価値は」など、自問自答を繰り返し、前を向くにはそれなりの時間を要した。そして、2017年に国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得した。
当時の人事処遇制度改正で示された「生涯現役」と、「やりがい・働きがいによる組織と社員の成長」を目指す社の方針に則って、私の企業内キャリコンとしての第一歩がスタートした。
まずは、30代・40代・50代向けのキャリアデザイン研修から企画し、実施した。キャリアを自分で考えて切り拓くという土壌が社内でまだできていない中、50代キャリアデザイン研修では、楽しく語らうグループが見受けられ、カリキュラムに沿って研修は終了したものの、事後のアンケートでは「辞めさせるための研修ですか」「研修意図が不明」との意見があった。30代キャリアデザイン研修では、研修の目的とカリキュラムがうまく一致せず、不満の声が寄せられた。「あるある」の最たるものだろう。
改めて「キャリアデザイン研修」という箱に会社の想いを投入し、社員の幸福・やりがい・満足度向上につながる改善を加えていった。
具体的には、外部講師に当社を良く知ってもらうためコミュニケーションを深く取り、カリキュラムの詳細について意見交換を重ねた。時には「この言葉を使ってください」とフレーズまで指定した。また、研修前説明動画として、受講者とその上司に会社の期待や方向性、キャリアデザイン研修の意図や内容を配信した。
このキャリアデザイン研修に加えて、希望者に「研修後の振返り面談」と称したキャリア面談を試行した。キャリコンとの面談は社員にとって初めてのことであり、「何を話せばいいのか」「個人的な面談を勤務時間中に行って良いのか」「申し込んだ方が良いのか、申し込まない方が良いのか」など、たくさんの質問や戸惑いの声が上がった。
当初、面談の申し込みは受講者の3割程度だった。新米キャリコンとして、経験・ノウハウ・相談相手もなく、「想い」だけでスタートさせた面談であった。こちらも、アンケートにお礼の言葉があったり、自分の進む方向を宣言する言葉があったりした半面、ある時、キャリコンとしてあってはならない「詰問されたと感じました」とのメッセージを受け取った。私のキャリコン人生の中で、深い反省や後悔と共に、決して忘れてはならない戒めとなったメッセージであった。
◇ 企業内キャリア支援の現在地
それでも、継続は間違いなく力となる。
キャリアデザイン研修の延べ受講者数は、コロナ禍を挟みながら、この9年で社員の半数になった。「私はいつ参加できますか」と、問い合わせを受けることも出てきた。
また、取り組みの途中から、キャリア面談はキャリア研修受講後全員が受けることとし、こちらも社員の3人に1人が参加した状況になった。当然、私一人では対応できず徐々に対応するキャリコンを増やし、現在は、企業内キャリコン2名・社外キャリコン3名、計5名でチームを組み、企業内キャリコン・社外キャリコンの良さを発揮して活動している。
加えて、社内のキャリアコンサルタント資格保有者は、会社が高度資格に指定したこともあり、現在8名が社内各部署にいる状況である。
◇ 企業内キャリア支援の希望
そして、取組みを始めて10年目を迎え、これまでを振り返り、社内外の環境変化を考え、次のステップに進むことにした。
キャリアデザイン研修は、もう少し的を絞り、会社の方向性と合わせ「キャリア自律」をキーワードに受講対象年代とネーミングを変更する。研修後は、キャリコンとのキャリア面談で自分の方向をじっくり考え、自分の言葉で語れるようにして、上司とのキャリア面談に臨むプロセスとする。
また、初の試みとして「キャリアサポートデスク」(仮称)を月に10枠程度開設し、「社員が必要な時に、自分のキャリアを考え、語ることのできる場」をコンセプトに、自由な申込み制でのキャリア面談を実施する計画である。
新たな研修や面談が社員や会社に何をもたらすのか、ワクワクドキドキである。キャリコン資格取得後に学び続ける中で出会った「エニアグラム心理学」は、私に「当たり前に一人ひとり違う」ということを心底納得させてくれた。そのことを胸に刻んで、社員一人一人が成長に向かって活動を続け、自分の強みや自分らしさを活かして働き、会社の成長に寄与すると信じ、取り組んでいく。
当社には、まだキャリア支援の独立部門はない。時には、「人事部門に所属するキャリコンとしての葛藤」を抱えながら、隣に座るもう一人のキャリコンと共に考える毎日である。
企業内キャリコンとして活動してきた私にとって、当たり前に人事異動がある中、この活動を持続可能な状態にして次世代に渡すことが、自分の役割と認識している。そして「社員が笑顔で出社する会社」になるために、そうあり続けるために、私の会社人生の卒業に向けて、全力を尽くそうと考えている。
柳沢 尚美(やなぎさわ なおみ)
ACCN北海道支部運営サポーター
国家資格キャリアコンサルタント
キャリアサポート・エニアグラム・ファシリテーター
アスリートキャリアコーディネーター
※第1回PCAGIPファシリテータートレーニング修了(JACC)
※メンタルヘルス・マネジメント検定試験第Ⅲ種・第Ⅱ種合格
地元のエネルギー会社で、定年退職後も継続勤務中。入社以来、総務部門・技術研修・営業企画並びに営業スタッフを経て現在人事部門11年目。
2025年4月発刊「人生を変えるキャリアの軌跡 53人のキャリア支援者が語る成功と失敗の物語」(NPO法人キャリアサポート研究会)に53人の中の一人として執筆
コラムの感想等はこちらまで(協議会 コラム担当)
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