マンスリーコラム
【ゆるキャリ】第12回(最終回) 「相談するなら"人生経験が豊富な人"」だが、「経験」とは何を意味するの?②
前回のコラムではキャリアコンサルティング協議会が実施したアンケートの分析から、「相談するなら経験豊富な人がいい」、「華々しい経験ではなく、苦労した経験がある人ならもっといい」について書かせていただきました。今回はそのアンケートで挙がった「相談したい著名人」をもとに、苦労の中身をさらに深掘りしてみましょう。
■アンケートで支持されていた著名人とは?
アンケートで1位だったマツコ・デラックスさん、同じく2位だったひろゆきさんについては、過去のコラムですでに考えさせていただきましたが、今回はその次に支持されていたタモリさん、天海祐希さんを取り上げたいと思います。お二人とも苦労人という雰囲気を全く感じさせないほど、華々しく活躍なさっています。しかし、その裏には、苦労を苦労と感じない深い人生哲学もあるようです。今回はその哲学を参考に、人々がどのような人に相談したいのか考えてみたいと思います。
■タモリさん
単独司会者によるバラエティ、そして音楽番組の最長記録をギネスブックに認定されているタモリさん。浮き沈みの激しい業界で本当に長く活躍なさっていますね。筆者も子どもの頃からよく知っています。若い頃はタモリさんの深夜番組を楽しみにしていた...という男性も多いのではないでしょうか?
ただ、そのキャリアのスタートは決して華々しいものではなかったようです。大学入学で上京したものの、諸事情で中退。故郷の福岡に戻って職を転々としていたようです。その中で、とあるジャズバーのマスターとして働いていたころ、一部の間でタモリさんの「変人ぶり」が話題になり、その噂は東京のほうまで広がりました。そのうち「素人芸人」としてTVにも出演するようになり、やがてプロの芸人になり...とここからはみなさんもよくご存知の活躍です。その飄々とした存在感は、タレントのふかわりょうさん曰く「抜きの神様」。有名になろう、人気者になろう、などと有力者や視聴者に媚びることもなく、「結果を出す」などと力むこともなく... 芸人になっても、タモリさん自身は素人の頃から、いえ、もしかしたら諸事情で中退することになった学生時代からも、何も変わっていないのかもしれません。
このように力みがない分、ピリピリすることも怒ることもほとんどないそうです。なんだか、タモリさんにキャリアを相談すると、当コラムの「タイトルのように「ゆるっと」応じてくれそうですね。そして、「何も変えなくていい...」と助言をくれるかもしれません。
人は困ってしまうときは、良くも悪くも「何とかしなければ...」と力むものです。そんなときに、相談に乗ってくれる人が自分以上に力んでしまうと...。ちょっと相談しにくくなるかもしれませんね。タモリさんのように、まずは「そのままで」を受け入れてくれそうな人に 相談したいのかもしれません。
■天海祐希さん
天海祐希さんのお名前が挙がったのはドラマのキャラクターの影響もあるかもしれません。しかし、私はそれだけではないような気がしています。なぜなら、天海祐希さんの存在感そのものが「相談したい」、「話を聞いてほしい」と感じさせるもののように、思われるからです。
天海祐希さんといえば、言わずとしれた宝塚の伝説の大スターで俳優さんとしても華々しく活躍なさっています。ですが、宝塚キャリアにおいては、華がありすぎて先輩方から妬まれ続けたようです。ありもしない、人としての品位を落とすような噂話を流され、公演前に衣装が消えてしまう...、などなど目立つがゆえの苦労を本当にたくさんしてこられたようです。
ですが、自分の中で消化できていれば語る必要もない...が天海祐希さんの信念のようで、ご自身は当時のことをあまりお話にならないようです。どうやら、「苦労は消化できるもの」という人生哲学がありそうですね。「苦労は消化できる」という考え方は、苦労のただ中にいる方にはちょっと厳しく感じる哲学かもしれませんね。でも、苦労を消化できずに先に進めない方には、必要な哲学ではないでしょうか。筆者はこの哲学だけでも「相談したい」と思います。
ただ、彼女の魅力はこれだけではありません。天海祐希さんは弱っている人の力になりたい...というお気持ちを持っているようです。これは「役」としてのものではありません。天海祐希さんは1995年に宝塚歌劇団の機関誌『歌劇』2月号)にコラムを寄稿しています。そこには若い方の自殺の事件を受けて「(少しでも経験のある強い人が)助けてあげられる世の中に...」というお気持ちが記されています。彼女自身の感性として「力になりたい...」というお気持ちがあることが見て取れます。
つまり、人によっては厳しく感じられるかもしれない哲学を持ちつつ、「弱っている人の力に...」という温かさも併せ持つ...。ただ叱咤激励するだけの方でも、ただ甘えさせてくれるだけの方でもない、という深み。これが天海祐希さんのお名前が挙がった本当の理由だと筆者は感じました。
■おわりに
今回はタモリさん、天海祐希さんを通して相談したくなる人方について考えてみましたが、あなただったらタモリさん、天海祐希さんのどちらに、より相談してみたいと思いましたか?私は、贅沢かもしれませんが、まずは天海祐希さんに相談して、そのあとタモリさんに相談したいと思いました。
お二人に共通するのは、ご自身の苦労はもはや苦労と思っていないところです。人の相談にのる方は、まずは自分自身の苦労を消化して、力まずに生きていることが重要なのかもしれません。このコラムが、あなたの「相談」の参考になれば幸いです。
参考サイト:
・ふかわりょうが「タモリ」を心底尊敬する理由『力は抜くけど、いい加減ではないという塩梅』(東洋経済オンライン 2020/12/12)
・TV界の特異点「タモリ」の謎 〜汗をかかず、欲も見せない。なぜ存在だけで万人を魅了できるのか?(現代ビジネス 2015/09/02)
・宝塚いじめ騒動、天海祐希も苦悩した"嫉妬の園" トップ合格、異例の出世で悪質な噂を流されたことも(女性セブンオンライン版 2023/11/06)
~~ コラムの最後に:「雑草」で参りましょう‼ ~~
ここまで「ゆるキャリ」コラムにお付き合いくださって、本当にありがとうございました。また、キャリアコンサルティング協議会さまには、私などより立派な先生がたくさんいらっしゃる中で大抜擢いただき、未だに恐縮しております。
このコラムを執筆させていただいて私自身も新しい視点をたくさんいただくことが出来ました。最後に、このコラムを通しての私自身の気づきについて書かせてください。
私は「雑草系(臨床心理士・キャリアコンサルタント)」を名乗っています。これは私には華々しい学派もキャリアもない...、ということでもありますが、どんなに踏みつけられても枯れない雑草を尊敬しているからです。そして、踏みつけられて身動きが取れなくなった人々の力になるのが私の仕事だ...という意味も込められています。
ただ、このような姿勢で相談業務に臨む方は少数派かもしれません。相談業務は先が読めない不安な仕事です。やはり著名な大家や華のある方法論から安心感をいただきたいものです。私の相談業務キャリアの初期には、私の姿勢に異議をとなえる先生方も、実際のところ少なくありませんでした。
ですが、このコラムを書く中で、多くの人が雑草の気持ちを体験した方に相談したいのだとわかりました。雑草のように踏みつけられた方の力になるには、まずは私たちが雑草であらねばならないと思います。マツコ・デラックスさん、ひろゆきさん、タモリさん、天海祐希さんについて考察する中で、私自身はこのことに確信を持てました。
華々しいキャリアでなくても良いのです。いえ、むしろ雑草としてのキャリアが良いのです。みんながお互いを雑草として尊重し、雑草の仲間として支え合える...、そんな社会になれば私たちはもっと幸せなのかもしれません。そんな社会を目指して、さあ、踏みつけられた方々を支えられる、そんな雑草で参りましょう!!
杉山 崇 さあ、あなたの物語を整えよう mi-mollet(ミモレ)
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