キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2025年6月号

『深い対話』が、私を変え始めている ~キャリアコンサルタントとして歩みはじめた私の物語~

人と関わることが怖かった私が、キャリアコンサルタントになった理由

キャリアコンサルタントとして、人と深く関わる仕事をしている私ですが、もともと人と関わることがとても苦手でした。小さい頃から、自分の気持ちを伝えるのが怖くて、言葉が相手を傷つけるくらいなら黙っていた方がましだと思っていたほどです。
そんな私がキャリアコンサルタントになったのは、全くの偶然からでした。以前は、食品会社で長年、新商品開発などに携わっていました。大好きな仕事でしたが、育児のために仕方なく退職。その後、勤務時間を重視して就職先を探していた時、職業訓練校の就職相談員の募集を見つけました。
かつて職場の部下から「とても話しやすい、相談しやすい」と言ってもらえた記憶を頼りに、自分にもできるかもしれないと思い、転職しました。
そして今振り返ると、あの選択がすべての始まりでした。

がむしゃらに学びたい----自己研鑽が導いたご縁 

2年前に2級キャリアコンサルティング技能士を取得してから、私の中で「もっと学びたい」という気持ちが一層強くなりました。何かに取り憑かれたように、がむしゃらに学びを探し求めていた頃、とても魅力的なキャリアコンサルタントに出会ったのです。
「この人のようになりたい」----そう思わせてくれたその方が、主要メンバーとして関わっていた女性限定のコミュニティがあると知り、一昨年思い切って参加を決めました。
当初の目的は、仲間を作ることではなく、その方の近くで学びたいという一心でした。けれど、1年間、月1回オンラインで行われる「振り返りと目標の共有」、そして「自分を知るためのワーク」などを重ねていくうちに、少しずつ仲間たちの存在が私の心の支えになっていったのです。「自分のことを肯定してくれる仲間がいる」と人に関わることにより、どんどん目標を達成し、成長していく自分に気づきました。

PCAGIP法との出会いと『深い対話』の衝撃 

そんな学びの中、私はさらに成長したいという思いから、ACCN九州・沖縄支部主催の「PCAGIP法による"事例検討"」(案内役・ファシリテーター:南陽子さん)に参加しました。がむしゃらに学びたいという思いの真っただ中での出来事です。
そこで私は、初めてのPCAGIP法の場で話題提供者として、自分の"困りごと"を語る機会を得ました。オンラインで、しかも初対面の方ばかりという状況に戸惑いもありましたが、話し始めると、当初話すつもりだった内容とはまったく違う感情や思いが、自然とあふれてきたのです。
「あれ、私、こんなことまで話してる......?」
驚きながらも、その場の"あたたかさ"が、私の心の奥をそっとほどいてくれました。私の言葉を丁寧に受け止め、優しく問いかけてくれる参加者たち。その存在が、心に深く沁みました。だからこそ、私も自分自身に問いかけながら、誠実に言葉を選び、語ることができたのだと思います。
終わった後、ファシリテーターの方が涙を流されていた光景を、私は今でも忘れられません。あれこそが、本物の"対話"だったのだと、確信しています。この体験があったからこそ、私はその後、似たような"困りごと"に直面しても、この場を思い出すことで乗り越えてこられました。

続く学び、PCAGIP法トレーニングでの気づき

 この体験をきっかけに、私は南陽子さんがメインで担当されている「日本キャリア・カウンセリング学会のPCAGIPトレーニング2025」にも参加することになりました。全16回のトレーニングは、現在ちょうど折り返し地点。毎回、同じメンバーでファシリテーター・話題提供者・記録係・金魚(質問者)という役割をローテーションで経験していきます。
この場では、話題提供者のために全員が真剣に問い、聴き、場をつくっていきます。とりわけ、毎回設けられている「振り返りの会」は、私にとってとても大切な時間です。自分の関わりを振り返り、他者からフィードバックを受け取り、そしてまた自分を見つめ直す----。時には、自分の中の素直な疑問や戸惑いを、安心してメンバーに投げかけることもできます。
この「安心・安全な場」があるからこそ、私は対話の中で何度も自分自身に出会い直しているのだと感じています。

対面で触れた、PCAGIP法の原点 

そして今年3月には、PCAGIP法の創案者である村山正治・尚子ご夫妻による対面セミナー(創元社主催)にも初めて参加しました。参加者の多くは初対面でしたが、トレーニング仲間が数名参加していたことが、大きな安心感につながりました。「知っている誰かがそばにいる」--その事実が、緊張していた私の心を和らげてくれたのです。
90歳とは思えない正治先生の気迫、そして尚子先生の穏やかなまなざし。お二人が大切にされている"あたたかい場づくり"が、そのまま会場全体に広がっていきました。
参加者は記録が見えるように円陣を組み、事例ではなく「話題提供者」を理解するための問いを一人ひとりが丁寧に投げかけていきます。表情・息遣い・声のトーンなど、オンラインでは味わえない臨場感が、場の空気をより深く、豊かなものにしてくれました。
終わった後、話題提供者の方が「深い対話ができた」と話されていました。その言葉を聴いたとき、「これだ、私が大切にしたいのは」と、心の底から思ったのです。

対話が、人の力を呼び覚ます 

学びを深めていくうちに、いつしかひとつの問いを胸に抱くようになりました。 

--「"自分らしい"キャリアコンサルタントのあり方って、なんだろう?」--

その問いに、明確な答えはありません。 でも、少しずつ見えてくるようになりました。 
それは、誰の中にも語るべき物語があること。 
それは、聴いてみないとわからないこと。
そして、人は本来、生きる力を持っているということ。
私は、その"力"を信じたいし、大切にしたいと思うようになりました。 かつての私は、自分の気持ちを伝えることが怖くて、黙っている方を選んでいました。けれど今では、対話の中で「素直に気持ちを伝えたい」と心から思えるようになりました。それは、対話が私の中にあった"力"を呼び覚ましてくれたからです。
こうした経験の積み重ねが、今の自分を受け容れ、「自分らしくあるためにフリーランスで働く」という大きな決断を後押ししてくれました。人と比べず、恐れず、自分の感情に素直でいたい。
"自分らしさ"を追求する旅は続きますが、これからも『深い対話』を通じて、人の力を静かに照らせる存在でありたい。 それが、私のキャリアコンサルタントとしての原点であり、これからも歩み続けていく理由です。

<参考文献>村山正治・中田行重(2024) PCAGIP法の実践―対人支援職を支える新しいパラダイム― 創元社
<参考マンスリーコラム>「キャリアコンサルタントとPCAGIP法(南陽子さん)https://www.career-cc.org/column/column000273.html

山田 亜由美(やまだ あゆみ)

山田 亜由美(やまだ あゆみ)

ACCN九州・沖縄支部 運営メンバー
2級キャリアコンサルティング技能士 
国家資格キャリアコンサルタント

大学卒業後、同大学医学部で助手を務めた後、食品会社で新商品開発・品質管理・ISO/HACCP導入・お客様相談対応・部下育成など多岐にわたる業務を23年間経験。育児を機に人材支援に軸足を移し、職業訓練校で7年間、20代~60代の就職支援に携わりました。現在はフリーランスとして、食品会社の品質管理体制の立て直し・組織開発・1on1面談支援、「聴く力」の育成支援、高校生・大学生の採用支援などに取り組んでいます。

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