2025年6月号
【 キャリなに? 】#0 気持ちの質問
「その時のお気持ちを聞かせていただいてもよろしいでしょうか」
こう質問されて、あなたはどんな気持ちになりますか。
嬉しいと感じる人は少ないようです。困惑したという人、冷たい感じがしたという人、他には、失望、あきらめ、怒りといった言葉でその印象が語られます。
この開かれた質問は、その時の気持ちを思い出すこと、それを適切な言葉で表現すること、さらにそれを語ることを求めています。しかし同時に、相談者の気持ちを想像したり、共感したりする気はない、という宣言でもあります。
その時の気持ちを思い出して、言葉にするのはとても難しいことです。「かなしい」という言葉に置き換えたとたんに、細かいニュアンスがすべてこぼれ落ちて、言い尽くせていない物足りなさに襲われます。かといって、それ以上自分の心を表す言葉を持っているとは限りません。誠実に正しく伝えようとすればするほど、困惑するのは当然のことです。
質問した人に「なるほど、悲しかったのですね」と、分かったような表情をされると、伝わってよかったとは思わないで、「悲しかった」という言葉しか受け取ってもらえていないと感じます。気持ちそのものではなく、気持ちに関する情報、言葉しか受け取ってもらえていないと感じるのです。私の気持ちを丸ごと受け取ってもらえない、分かろうとしてくれていないと感じるので、冷たさ、失望、あきらめ、怒りといった言葉でその印象が語られたのでしょう。
確かに、気持ち、感情は主観的な体験ですので、他人のそれを直接知ることは原理的に不可能です。だからといって、安易に質問をすればいいということではありません。どうせわからないのだから本人に訊けばいいという開き直った態度では、相談関係を築くことは困難です。
決して完全には分からないものであっても、少しでも近づきたい、感じたい、分かりたいと思うことはできます。あたかも自分に起こったことのように受け止めて、その時感じた自分の気持ちを手掛かりにして、相談者を理解しようとすることです。「お話を伺って私はこう感じました」と伝えるためには、相談者が伝えようとすることを誠実に聴くことが必要です。相手の気持ちを理解しようとするこのような姿勢が、信頼感、安心感を育んでいきます。
「その時の気持ちはお答えできませんが、そんな質問をされて、今はとても不快です」と言われないようにしたいものです。
さてこのように、普段何気なく、または良かれと思っておこなっていることの中に、改めて考えてみるとおかしなことや不具合などがたくさんあります。キャリアコンサルティングってなんだろうと思っている方や、これからキャリアコンサルタントになろうとしている方から、すでにベテランの方も含めて、もう一度キャリアコンサルティングについて考える機会をつくることができればと思っています。そこで、来月から様々なトピックスを取り上げて解説をしていきます。より良いキャリアコンサルティングについて、一緒に考えていきましょう。
#コラム「キャリアコンサルタントって何をする人?」#0
❖ 「キャリアコンサルティング、キャリアコンサルタント」のことをもう一度考えてみるコラム「キャリアコンサルタントって何をする人?」(キャリなに?)は毎月15日に公開されます
❖ キャリアのことをいろいろなテーマで「ゆるやか」に考えたコラム「ゆるキャリ」(全12回)のバックナンバーも併せてお読みください こちら
石崎 一記(いしざき かずき)
1958年7月埼玉県生まれ
1級キャリアコンサルティング技能士
カウンセリングルーム「ウサギのはらっぱ」主宰
埼玉県スクールカウンセラー
前東京成徳大学応用心理学部教授
平成14年度より23年度まで、厚生労働省キャリアコンサルティング研究会委員、同研究会各種部会座長等を歴任。
発達心理学の視点から、働く人の伴走者として幸せづくりのお手伝いをすることに取り組んでいる。
What a Wonderful Worldの世界の実現がライフワーク。
コラムの感想等はこちらまで(協議会 コラム担当)
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