キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2026年1月号

【 キャリなに? 】#6 「メリット・デメリットで、本当に決められるの?」

昨年の10~12月のコラムでは、相談者の困っていることを正しく理解すること、またそれを共有することについて、詳しくお話させていただきました。今回は次の段階の「目標」について考えて参ります。

困っていることとその理由が共有できると、目標が共有できるようになります。問題は、問題点、つまり間違いや不足ではなくて、認識された現状と相談者が今の時点で望む理想像とのギャップのことですから、このギャップを解消すること、その具体的な取り組みをはっきりさせることが目標となることが多いようです。そのためのアプローチには3つの方向性があります。第1に現状の認識を吟味すること。見えていないこと、あまり価値がないと思っていたことをちょっと別の角度から眺めただけで、不満だらけの現状が違って見えてくることもあります。第2に理想像を検討すること。理想像が高すぎたり、嫉妬やうらやみを含んだりしている場合には、どんな現実でもギャップは生じますので、これを検討することは有効です。第3には、現状から理想に向かって進む道を探ること。その過程で取り組むステップは課題と呼ばれます。どのアプローチが有効かはもちろんケースによって異なりますので、問題把握の過程でしっかりと理解して共有し、今後の取り組みの目標を共有します。

第3のアプローチが有効なケースでしばしばみられるのが、経緯や気持ちを無視して、すべての選択肢を並べて選ばせようとするやり方です。「現状(A)こうである、こうなる(B)ことを望んでいる、しかしこういったこと(C)があってうまくいかないかもしれない、また、Bを選んだ場合こんなことも心配だ、それならいっそのこと最初から別の選択肢(D)を選んだほうがいいとも思うが、それにはこういったことを我慢しなければならない」こういったことを悩んで相談にいらっしゃる方は少なくありません。AからBに向かう際にCという障害がある場合の合理的解決には、まずはCを解決する「克服」、Cを避ける「迂回」、Bに代わる目標を設定する「代償」、時期が来るまで待つ、我慢する、諦める「抑制」という4つの方法があります。Bを望んでいる相談者にとって、BとDは等価値ではないはずです。

ところが、これを乱暴に二つ並列に並べて、それぞれのメリット、デメリットを整理しましょう、などと提案している場面によく遭遇します。それぞれにメリットとデメリットをもつ二つの対象の間で迷っている状態は葛藤、特に二重接近回避型葛藤と呼ばれる非常に解決の困難な状況です。こういう迷い方をしている場合では、メリットとデメリットを整理して比較することはしません。葛藤は強さの等しい誘意性を持つ複数の対象が同時に存在して、そのいずれかを選択しなければならない時に体験される心理的苦悶のことです。迷っていて選べないわけですから、選ぶ基準や欲求、制約などを丁寧に解きほぐしていくことが必要になります。これらを超える理想の選択肢が見つかれば葛藤は解決しやすくなることもありますが、多くの場合さらに複雑にしてしまいかねません。

まずは、AからBに向かっていたが、Cという障害が生じた、という経緯を聴いていきます。なぜそれが障害になるのか、解決のための方法はないか、それを避けてBに至る方法はないかを十分に検討した後に、ではAを諦めて代償的満足を求めてDを検討するという手順で進めていくことになるでしょう。それでも、やっぱりAが諦めきれないと、葛藤になることもよくあることです。

何かを選ぶことは他を諦めることでもあります。どんな場合でもそれはつらいことですし、勇気のいることでもあります。そのことを十分に分かったうえで、クライエントの考えや気持ちを共感的に理解することが、このつらさを自分で受け止めて、決断する勇気を支えていきます。時にその判断が、合理的に考える多くの方にとっては首をかしげるものであったとしても、それもまたクライエントが納得して選んだ幸せな人生です。機械的にメリットデメリットを整理して計算することで、果たしてクライエントの心の底からの納得や、自律的な選択に到達できるのでしょうか。

クライエントが自分の人生を自律的に決めていくことを、どうしたら支えていくことができるのか、クライエントが安心して悩めるような場を作るうえで私たちの役割は何か。改めて考えてみましょう。

#コラム「キャリアコンサルタントって何をする人?」#6

❖ 「キャリアコンサルティング、キャリアコンサルタント」のことをもう一度考えてみるコラム「キャリアコンサルタントって何をする人?」(キャリなに?)は毎月15日に公開されます

キャリアのことをいろいろなテーマで「ゆるやか」に考えたコラム「ゆるキャリ」(全12回)のバックナンバーも併せてお読みください こちら

石崎 一記(いしざき かずき)

石崎 一記(いしざき かずき)

1958年7月埼玉県生まれ

1級キャリアコンサルティング技能士
カウンセリングルーム「ウサギのはらっぱ」主宰
埼玉県スクールカウンセラー
前東京成徳大学応用心理学部教授

平成14年度より23年度まで、厚生労働省キャリアコンサルティング研究会委員、同研究会各種部会座長等を歴任。
発達心理学の視点から、働く人の伴走者として幸せづくりのお手伝いをすることに取り組んでいる。
What a Wonderful Worldの世界の実現がライフワーク。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 コラム担当)

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