マンスリーコラム
【 キャリなに? 】#7 「ほめるときには気をつけて」
「素晴らしいですね」「そのやり取りはいいですね」などと口にした記憶がありません。私はあまりクライエントさんやスーパーバイジーさんのことを褒めることをしないようです。
しかし、「頑張っていますね」とか、「丁寧に聴かれていますね」、「とてもおつらい気持ちが伝わってきました」などは、よく口にしているような気がします。お相手の方は褒められた、認めてもらえたと感じていらっしゃる場合もあるようですが、私の気持ちとしては褒めるというより、そこで起こったことを言葉にしている感じです。
褒めたり、叱ったりといった働きかけは、動機づけ理論からすれば言語的外的報酬によって行動を統制する手段と考えられます。つまり、褒めるという正の報酬は行動を強め、叱るという負の報酬は行動を弱めるための働きかけと言えます。褒められることで、その行動の正しさを認められ、うれしい気持ちになり、その行動をもっとやろうという気持ちを強めます。いいことばかりのようにも見えますが、いくつか気をつけたほうがいい点があります。
第1に、何を褒めて、何を無視し、何に罰を与えるか、という基準や、褒めるかどうかの判断は、褒められる側ではなく褒める側が持っているという点です。キャリアコンサルティングの場面で言えば、キャリアコンサルタントが判断、評価をして、クライエントさんやバイジーさんの行動をコントロールするという性質を持っています。その関係が重要であるほど、やがて、その行動の正しさよりも褒めてもらうことが行動の意図に変化していくこともあります。結果として依存性を高める方向に関係が変わりかねません。
第2に、本人ができたと思っていない、満足していないときに、よくできた、すばらしいと言われると、逆に意欲が減退することも知られています。非随伴性の認知による無気力といった用語で説明されることもあります。褒めたつもりが逆にやってもやらなくても関係ないと受け取られるのは悲しいですね。
こういったことを避けるために何に気をつけたらいいのでしょうか。
まず何より、キャリアコンサルタントとしての基本姿勢を見直すことが大切です。どんな言い方をしたところで、心の奥底でクライエントさんやバイジーさんを見下していれば、それは相手に伝わってしまいます。「あなたのお力になりたい」という気持ちの裏に「悩みがあるのは悪いこと、だめなこと」、「解決できる私と解決できずに困っているあなた」という本音がかくれていたら、一段高いところから見下ろしているようになるのも仕方のないことです。
第2に、いかに評価、判断なく、実際に起こっていることを言葉にできるかを工夫することも有効です。前述の動機づけの理論のなかでも、言語的なフィードバックは意欲を高めることが示されています。「素晴らしいですね」の代わりに、そう判断した客観的理由、根拠だけを口にするということです。「あきらめずに続けたのですね」という言葉は褒めるというより事実を言葉にしただけです。しかし、そこに注目したこと、それを言葉で返してくれたことから、認めてもらえたという気持ちがあふれて来るに違いありません。
第3に、あなたはという言い方ではなく、私はこう感じた、こう受け取ったという表現にとどめることで、評価的な印象が薄れる場合もあるようです。構成的グループエンカウンターのエクササイズに、「私はあなたが好きです。なぜならば。」というものがあります。小グループの各メンバーが順番に、その中の一人に「私はあなたが好きです。なぜならば(一生懸命だから)です。」と、自分がその方に感じている印象や素敵だと思う点を伝えていきます。不思議なことに、言われた人は一様に、褒められてうれしかったと語ります。「あなたは一生懸命なところが素晴らしい」と褒められたわけではないのに、です。私はこう感じた。私はこういうところが素敵だなと思います。こういった表現で正確に伝わる気持ちもあるように思います。
褒めることはいいこと、と無邪気に考えるのではなく、一度見直してみてはいかがでしょうか。
#コラム「キャリアコンサルタントって何をする人?」#7
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