キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2026年3月号

【 キャリなに? 】#8
「専門用語を使わないで話せてこそ、専門家」

専門用語は、とても便利です。背景や立場、考え方を一瞬で共有できますし、定義されている意味以外で使われることがないという安心感もあります。いちいち説明しなくていいので、スムーズな会話ができます。

ただ、専門家でない人が立場も定義もあいまいなまま、なんとなく「そんな感じのこと」をいう時に、「それっぽい専門用語」を使うと、かえって意味があいまいになったり、場合によっては混乱を招いたりすることさえあります。例えば、「自己中心性」はわがままとは無関係ですし、「自己肯定感」は、複数の観点、考え方、定義があって使いにくい用語です。無邪気に、自己+中心+性質とか、自己+肯定+感情と分解して、意味を推測できればいいのですが、あいにくそうはなっていないことが多いようです。

専門用語を使いたがる動機は、そのほうが正確で便利だからというより、ちょっとカッコイイ感じの専門家アピールという場合もあるのかもしれません。逆に自信のなさを隠すためということもありそうです。隠語やジャーゴンとしての使い方と言えます。専門用語にかかわらず、ビジネスの場面で盛んに使われる横文字や、若者言葉なども同じです。

キャリアコンサルタントとしては、分かったふりをしないことと伝えたいことを正確に伝えることが何より大切ですから、言葉の使い方にも慎重になります。

「自己肯定感が低い」と聞いた時に、この言葉で伝えようとしていることは何かが知りたくなります。自分を好きになれない、自分はダメだと思っている、自分の劣っているところを受け入れられない、先輩と比べて自分はダメなところばかりだ、頑張れない、自分の理想と現実が違いすぎる......。これらは概念的にはいずれも自己肯定感が低いと表現できますが、そう表現したとたんに大事な情報がすべてそぎ落とされてしまいます。

そもそも概念というものが、個別の事情を切り落として、共通性に基づいて物事や考えをまとめてとらえたものですから、それは当然のことです。その人が、今、どんなことで困っているのかという個別の話をしているときに、「つまり自己肯定感が低いということですね」というのでは、理解から遠ざかっていくようにも思います。

「寄り添う」という言葉も使いにくい言葉です。「寄り添うことのないキャリアコンサルティング」というのがイメージしにくいせいかもしれません。表現したいことがぼんやりしたまま、何となくイメージで、物理的にぴったりとそばに寄る、くっつくようなイメージ、精神的に相手の気持ちに共感・理解し、親身になって支えるような感じを伝えたいのでしょうか。伝えたいことにもっとぴったりな言葉はないのでしょうか。

あいまいな専門用語やはやりの横文字を使うことより、そこで起こっていることや考えを、分かりやすい日常用語で正確に伝えられることにこそ、専門家らしさを感じます。そのためには、話し手としては、伝えたいことが明確になっていること、それを表現する適切な言葉が選ばれていること、その言葉は聞き手に理解してもらえるものであると予想できていることが、知らず知らずのうちにできているということですし、聴き手としては、分かったふりをしないで傾聴ができていることです。

大人を対象に質問紙調査をする際には、普通の中学2年生が読んでわかる言葉を遣うようにと言われます。それができない場合には、再度調査の内容や概念について明確にするように、学生の頃先生や先輩からしごかれたことを思い出します。

一度専門用語やはやりの横文字言葉を一切使わないで、専門的な内容について会話をしてみてはいかがでしょうか。習慣的に専門用語を使う人には難しいかもしれませんが、きっと新しい気づきがあるはずです。

#コラム「キャリアコンサルタントって何をする人?」#8

❖ 「キャリアコンサルティング、キャリアコンサルタント」のことをもう一度考えてみるコラム「キャリアコンサルタントって何をする人?」(キャリなに?)は毎月15日に公開されます

キャリアのことをいろいろなテーマで「ゆるやか」に考えたコラム「ゆるキャリ」(全12回)のバックナンバーも併せてお読みください こちら

石崎 一記(いしざき かずき)

石崎 一記(いしざき かずき)

1958年7月埼玉県生まれ

1級キャリアコンサルティング技能士
カウンセリングルーム「ウサギのはらっぱ」主宰
埼玉県スクールカウンセラー
前東京成徳大学応用心理学部教授

平成14年度より23年度まで、厚生労働省キャリアコンサルティング研究会委員、同研究会各種部会座長等を歴任。
発達心理学の視点から、働く人の伴走者として幸せづくりのお手伝いをすることに取り組んでいる。
What a Wonderful Worldの世界の実現がライフワーク。

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