キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2024年5月号

【ゆるキャリ】第4回「キャリアを相談したい人」は「マツコ・デラックス」!?その② 生きづらさや苦悩の経験が魅力になる時代へ

■ マツコ・デラックスの困惑回収力

さて、今回も前回に引き続き、マツコ・デラックスさんにキャリアを相談したい理由について考えてみましょう。
キャリアコンサルティング協議会が実施した「キャリアを相談してみたい有名人」の調査(「相談するということ実態調査2023年」)で固有名詞が上がった方として第1位に輝いたマツコ・デラックスさん。前回は調査についての内容分析から「相談しても冷たくあしらわない」、言い換えれば「(私を)尊敬し、親身に相談に乗ってくれて、真剣に悩みに応えて的確な意見や答えをくれる」というイメージがマツコ・デラックスさんへの支持につながったと考察しました。

TVのバラエティ番組という混沌とした空間において、抜群の「困惑回収力」を発揮していることが好まれていると考えられます。誰かに相談したいときは多少なりとも困惑しているもの。マツコ・デラックスさんのキャラクターやバラエティタレントとしての実力を考えれば納得の結果と言えるでしょう。

■ マツコ・デラックスに相談したいもう一つの理由とは?

このような「相談したらどう対応してくれそうか」は、誰に相談するかを決める大きなポイントです。困惑した自分に対して「そんなの知らないわよ」とか「ああ、そう」など軽くあしらわれたら傷つきます。相談するからには、突き放されたくはありませんものね。キャリアという大事なことを相談する人には、一緒に困惑してくれて、見事に回収してくれる...そんな懐の深さが求められているのです。私も見倣いたいと思います。

ただ、相談とはそれだけではありません。やはり相談する相手が人として魅力的でないと、相談しようという意欲も湧きにくいものです。では、マツコ・デラックスさんにはどのような魅力があるのでしょうか?前回と同じく調査の内容分析に基づいて考えてみましょう。
なお、分析のもとになった資料はマツコ・デラックスさん以外の方を想定したコメントが含まれている可能性もありますが、マツコ・デラックスさんに該当すると考えられる部分を抽出して考察しています。

■ 分析で浮上したマツコ・デラックスの魅力とは?

今回の内容分析では「その人物がどのような特徴を持った人なのか」というベクトルに焦点を当てました。具体的に上がった言葉としては「幅広い知識」、「苦労」、「自分の考えをもっている」、「幅広い人間関係」、「豊富な人生経験」、「いろいろな観点」などでした。

私はこれらはすべてマツコ・デラックスさんに該当すると考えています。あなたはどう思いますか?
さて、ここでマツコ・デラックスさんの履歴を確認してみましょう。大柄な女装男性...というイメージですが、実はそれだけではない深みのある経歴をお持ちです。著名人なのでネット上には真偽不明なものも含めて各種データがありますが、ここでは信頼できそうな情報をピックアップして、履歴の確認とさせていただきます。

■あなたは知っている?マツコ・デラックスの履歴

マツコ・デラックスさんが世に出たのは2000年前後。当時は人間関係などで行き詰まり引きこもり生活をしていました。その当時から日常生活では普通に男装で生活していることを明かしていました。性自認はどうあれ、いずれにしても苦悩に満ちた「生きづらい若者」を経験していたのです。
高校卒業後は美容学校、美容業と進むものの「何かが違う」という日々だったとか。この「何かが違う」というもやもやは、キャリア心理学的にはとても重要な感覚です。なぜなら、その人の魂のようなものが「この日常は自分のキャリアではない!!」と泣き叫んでいるようなものだからです。そう、つまりは「苦労」して生きている方なのです。
いわゆるゲイ雑誌の編集者を務め、ドラァグクイーン(drag queen)の大家とも親交を持ち、現在では大人気のバラエティタレントとなりました。
社会には見えない壁がたくさんあって、その壁の向こう側はこちら側にいる人にはなかなか垣間見ることもできません。マツコ・デラックスさんはその一つの壁の向こう側の人として一般の人達とは違う世界を経験し、幅広い人間関係をお持ちのことでしょう。そして、TVの言動などから、苦労の多い世界で生き抜く中で自分の考えも持つようになった...というイメージが広く定着しているように思います。

■ 「生きづらさ」や「苦悩」の経歴が魅力になる時代へ

キャリアを相談する際、生きづらさや苦悩を経験したうえで眩しく活躍している人ほど魅力的な人はいません。経験者から見たら自分が今、身をもって感じている生きづらさや苦悩の出口がきっと見える...と期待できるからです。マツコ・デラックスさんの履歴はこのような期待を持たせてくれるのに十分な深みがあります。このことを感じ取った方々がマツコ・デラックスさんに相談したいと支持しているのでしょうね。
残念ながら、今の日本の労働市場においては生きづらさや苦悩の経験が正しく評価されていません。採用側が挫折や苦労をしていない、言い換えれば「きれいな履歴」の方を好むからです。
もちろん、生きづらさや苦悩を経験するのはそれなりの理由があります。中には付き合いにくい方や良識に欠くと感じられる方もいないわけではありません。
しかし、苦労した方にはそれ以上の魅力もあることをマツコ・デラックスさんが実証してくれているように感じます。苦労した方の魅力、この魅力にみんなが気づき、「きれいな履歴」ではない方も正しく評価されて活躍できる日本になるといいですね。僭越ながら、私たち国家資格キャリアコンサルタントがその推進役を務められたら...と願っています。

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杉山 崇(すぎやま たかし)

杉山 崇(すぎやま たかし)

神奈川大学 人間科学部 人間科学科 教授
神奈川大学大学院 人間科学研究科人間科学専攻(臨床心理学分野演習担当教員)
専門分野:臨床心理学(心理療法・異常心理学・うつ病学), 産業社会心理学・キャリアコンサルティング, 感情・認知パーソナリティ心理学
学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。在学中から、障害児教育や犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験した。
幼稚園児から高齢者まであらゆる年代のあらゆる心の問題に立ち会ってきた雑草系臨床心理士。並行して人づきあいと心の健康の研究を行い日本学術振興会特別研究員として国費の助成を受ける。
長野大学専任講師、山梨英和大学准教授などを経て、2013年から現職。
現在は、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究を行っている。

【杉山崇の目指すもの】
心理学でみなさんがハッピーになるお手伝いをしたくて,心理学研究者/心理療法家を目指しました。
人生は,みんな一人分いただいています。
必然的に,生きていける人生と,生きていけない人生が発生します。
現代社会では,何を生きて,何を生きないか,決めるのは私たち自身です。

自分で決められる現代社会(基本的人権とかいうもの)に感謝するとともに,
自分で決めなければいけない負担も私たちは背負っています。
ここから現代的な格差が生まれてきます。

こんなことを考えていたら,いつの間にか心理療法の仕事にたどり着いて,心理学の研究者をやっていました。
人生を楽しみたおすコツ,世の中をより生きやすくするコツご一緒に探しましょう。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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