キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2024年9月号

【ゆるキャリ】第7回 なぜ、「ひろゆき」が支持される?その③「ひろゆき」という偶像でキャリアコンサルティングをするべきではない理由

■ 人類とはメディアに影響される生き物である

 さて、今回も唐突に話のベクトルを変えてしまいますが、みなさんは「メディア(情報媒体)」の意味とは何だと思いますか?というか、現生人類(ホモ・サピエンス)ほどメディアを大きく発展させ、メディアに影響されている生き物は他にいるでしょうか?ここはメディア論を長々と展開するものではありませんが、一つの事実として人類は巨大なメディアを作り、そして自分たちが作ったメディアに影響を受ける動物です。人類の中でメディアを作り操る発信者と、メディアに左右される受信者に分かれて社会を形成しているのです。
 そして、人類の歴史の中では発信者が大きな権限を持ちます。発信者の権限の大きさの象徴としては貨幣経済が挙げられるでしょう。貨幣、特に紙幣は「紙」に過ぎません。私たちは普段は意識していないことと思いますが、「貨幣」なんて本当は「偶像」なのです。しかし、時の権力者が「この紙には価値があります!!」と発信し続けることで価値が生まれています。これを何百年、何千年と続けているうちに、私たち人間の脳はもはや本能的と言っていいくらい深い次元で、お金に価値を見出すリアクションをするように進化してきました。
 有力な発信者は人の心に一時的な影響を与えるだけでなく、世代を重ねる中で人類の進化にも影響しているのです。いやあ、発信者の力って本当に怖いくらいスゴいですね。

■ 「発信」という特権の開放者?!

 さてさて、ごめんなさい、今回も「ひろゆき」の話のはずが、メディア論、偶像論から始まってしまいました。ですが、この話、偶像としての「ひろゆき」とZ世代を理解するための最後のピースのようなポイントなのです。
 前回のコラムでは「ひろゆき」が「二宮金次郎」というロールモデルを壊したことを解説しました。まるで既存の価値観の「破壊神」のように見えたかもしれません。
 しかし、「ひろゆき」が作った「2ちゃんねる」は、一部の階層が独占していた「発信者」という特権を他の階層に開放する、という快挙をやってのけたのです。もちろん、本当の開放者は現在のネット社会を作った人々、そのネット社会を使いこなしている人たちの全員です。決して西村博之氏(「ひろゆき」の本名)が独りで構築したわけではありません。
 ただ、やはり匿名で発信できるようにしたということのインパクトは大きかったと私は評価しています。一部にはいわゆる「みんなの公衆便所」のようなネガティブな評価もありますが、匿名であるということは発信者がその社会的ポジションで差別されないということです。

■ 「知らないとガチやばい!」のインパクト

 一般的に、私たちは情報の価値をその発信者で評価します。社会的ポジションが高くない人の発信が高く評価されることは少ないでしょう。しかし、「"ひろゆき"が作った」とされる「2ちゃんねる」なら、現世でのポジションに関係なくその発信がどれだけ人々に興味を持たれ、共感されるかで評価されるのです。
 実際、私の周りでも社会的には発言力がない方々が、「自分の書き込みに多くのリアクションがあった」ということがとても喜びになり、自信と誇りになっていたという例が散見されました。この、「発信者になれる」、「新しい偶像と価値を自分が作れる」という特権の開放者...これがその後の「ひろゆき」という偶像の最初のスタートだったと筆者は考えています。
 その後の「ひろゆき」は、"これ知らないとガチやばい!!"というニュアンスの動画発信を積み重ね、やはり一部に独占されてきた「知恵」を開放する偶像を作り上げてきました。Z世代のみなさんは「2ちゃんねる」をオンタイムで知らなくても、「教科書や周りの大人が教えない大事なこと」を教えてくれるという期待を込めて「ひろゆき」という偶像を見ていることでしょう。

■ 西村博之氏は素晴らしいキャリアコンサルティングをするかもしれないけど...

 さて、ここでキャリアコンサルティングについて考えてみましょう。キャリアコンサルティングとは、クライエントの自己理解をサポートして現代社会で可能な生き方、働き方のイメージを作るのが仕事です。言い換えれば「クライエントのこれからの物語」を一緒に描くのが私たちです。
 このキャリアコンサルティングという仕事の中には、偶像としての「ひろゆき」にZ世代が期待しているような存在感があるでしょうか?私のキャリアコンサルティング観になってしまいますが、やっぱり「ちょっと違う」って感じてしまいます。たとえば、「誰も知らないけど、真相はこうだ。大事なところが見えていませんね。」などという助言提案は、キャリアコンサルタントであれば余程のことがない限りはしないでしょう。むしろ「よく知られていることですが、あなたの場合で考えるとどうでしょう?」などのような自己理解を深める方向性の提案が多いのではないでしょうか。
 マスコミで人生相談をしているところなどを拝見すると、西村博之氏がその気になれば素晴らしいキャリアコンサルティングをされる可能性を感じます。しかし、Z世代の偶像となっている「ひろゆき」のイメージはキャリアコンサルティングの実際とは大きくかけ離れています。ですから、**キャリアコンサルティング協議会の調査では、キャリアコンサルティングを受けたい著名人の第2位に挙がった「ひろゆき」ですが、マツコ・デラックスさんとは違ってあまり参考にはしないほうがよさそうです。(**相談するということ実態調査2023年

■ 「あっ!」と驚くような真相より、「あっ!」と驚くような自己理解

 キャリアコンサルティングとは、まずは自己理解を丁寧にサポートするのが仕事です。「あっ!」と驚くような真相を教えてくれることは少ないかもしれませんが、それ以上に「あっ!」と驚くような自分への発見があることでしょう。私も久々にキャリアコンサルティングを受けて、改めて今の自分を考えてみようかと思います。

杉山 崇 アゴラAGORA 言論プラットフォーム

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杉山 崇(すぎやま たかし)

杉山 崇(すぎやま たかし)

神奈川大学 人間科学部 人間科学科 教授
神奈川大学大学院 人間科学研究科人間科学専攻(臨床心理学分野演習担当教員)
専門分野:臨床心理学(心理療法・異常心理学・うつ病学), 産業社会心理学・キャリアコンサルティング, 感情・認知パーソナリティ心理学
学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。在学中から、障害児教育や犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験した。
幼稚園児から高齢者まであらゆる年代のあらゆる心の問題に立ち会ってきた雑草系臨床心理士。並行して人づきあいと心の健康の研究を行い日本学術振興会特別研究員として国費の助成を受ける。
長野大学専任講師、山梨英和大学准教授などを経て、2013年から現職。
現在は、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究を行っている。

【杉山崇の目指すもの】
心理学でみなさんがハッピーになるお手伝いをしたくて,心理学研究者/心理療法家を目指しました。
人生は,みんな一人分いただいています。
必然的に,生きていける人生と,生きていけない人生が発生します。
現代社会では,何を生きて,何を生きないか,決めるのは私たち自身です。

自分で決められる現代社会(基本的人権とかいうもの)に感謝するとともに,
自分で決めなければいけない負担も私たちは背負っています。
ここから現代的な格差が生まれてきます。

こんなことを考えていたら,いつの間にか心理療法の仕事にたどり着いて,心理学の研究者をやっていました。
人生を楽しみたおすコツ,世の中をより生きやすくするコツご一緒に探しましょう。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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