キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2024年11月号

【ゆるキャリ】第8回 キャリアコンサルティングはどのような効果を謳うべきか?

■ 効果を謳うことは良いことか?

 突然ですが、あなたは認知行動療法という心理療法/カウンセリングの方法論をご存知でしょうか?そして、この方法論が「効果があります!!」と盛んに謳われていることもご存知でしょうか?
 このように効果を謳うこと、あなたはどう思いますか?良いことか、悪いことか、はたまた良い面も悪い面もあるのか...???実際のところ、心理療法/カウンセリングの世界にも様々な評価があります。
 筆者は、もともとは日本にロジャーズ(Rogers, C. R.)の方法論を定着させた村瀬孝雄氏に師事し、精神分析的方法論や河合隼雄一派のトレーニングも受けて来た人間です。まあ、平たく言えば心理療法/カウンセリングの「業界地図(?)」としては、効果を謳うことに慎重になるべき立場です。
ですが、筆者のような対人支援の実務者にとって大事なことは、業界での立場よりクライエントの実益です。クライエントの実益という意味では、効果的に謳うことで、ポジティブな結果が生じることが結構あります。認知行動療法は、プロパガンダによって、その効果が現れやすい療法の一つだと思います。

■ 「効果を謳う効果」は意外と絶大なり

「効果を謳う効果」にはたくさんの効果があります。その中でも筆者が治療的な効果として特に注目しているのは「プラシーボ(期待)効果を最大化する可能性」です。
このプラシーボ効果、日本では「偽薬効果」として紹介されることが多いようです。一部では「騙し」のようにネガティブに捉えられることも少なくありません。
ところが、このようなプラシーボ効果の捉え方は非常にもったいないことであることがわかってきました。実は昨今では医療の世界を中心にその治療効果の大きさが再評価されつつあるのです。
「これで治る...」という期待が薬理などの医学的処置を上回る場合があることが、じわじわとエビデンスとして蓄積されつつあります。それに並行してプラシーボ効果をどのように導入できるかが真剣に議論もされています。
効果を謳うことで、クライエントはその効果を期待します。このことが相談活動におけるプラシーボ効果を引き上げてくれます。認知行動療法についてのプロパガンダは、このようなプラシーボ効果の導入を先取りしたものだったのです。

■ 相談は来談前から始まっている

 そして、ここから言えることは、相談活動はクライエントの来談から始まるものではない...ということです。相談活動は、クライエントが相談することで何らかの良い変化を期待してくれるところから始まるものなのです。
 ですから、カウンセリングなども「どのように自分たちの相談活動を見せるか」について検討を始めるところからすでにスタートしているのです。見せ方を考えない、あるいは工夫しないということは、実務者にとっては相談活動の少なくとも一部を蔑ろにしているようなものです。これは実務者として非常に残念なことです。
 キャリアコンサルティングもこの相談活動の見せ方を重視することでますます効果的に発展することでしょう。いえ、国民の幸せの向上を考えるなら、なおさら効果的になるように発展させなければなりません。そこで、この連載でもしばらくは「来談前からの相談活動」である、キャリアコンサルティングの効果を謳うことについて考えてみたいと思います。

■ だが、どんな効果を謳うべきなのか

 さて、ここまで効果を謳うことの必要性を語ってきましたが、問題はどのように効果を謳うと潜在的なクライエントたちの期待が最大化するのだろうか...ということです。認知行動療法は心理療法/カウンセリングで言うところのEBM(Evidence Based Medicine)を参考に発展してきましたので、EBMと同様に「症状の緩和」を効果として謳っています。症状に困っている人たちを対象にした試みですので、症状の緩和を謳うことは大きな期待を生み、プラシーボ効果を最大化する可能性が高いと言えるでしょう。
 一方でキャリアコンサルティングが扱うのは文字通り、クライエントの「キャリア」です。このキャリアを可能な限り最高のものにすることが目的です。これを効果として謳うことが一つの方向性として考えられるかもしれません。
ただ、どうでしょう?「キャリアコンサルティングであなたのキャリアが最高のものになります!!」と謳われても、なんだか漠然としすぎて実感がわかないのではないでしょうか?具体性も乏しいので、下手をするとなんだか怪しげに見えてしまうかもしれません。もう少し、工夫が必要です。
プラシーボは、症状に困っている人が症状の緩和を期待するように、対象者が潜在的に求めているものにヒットする効果を謳うことで生まれます。国民がキャリアコンサルティングに求めていると考えられるものから効果の謳い方を考えるのが良さそうです。

■ エビデンスベースで考えましょう!!

 幸い、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会はそのヒントになる調査を行っています。相談するということ実態調査2023年その中には効果を謳う効果に繋がりそうな資料が満載です。特に筆者は次の「相談してみたい有名人」の共起ネットワークに注目しています。8_Network.png

 EBMではありませんが、エビデンスベースで考えるための資料はあるのです。そこで、このデータから「何を謳えば期待していただけるのか?」を読み解いて行きたいと思います。
 ただ、少々語りすぎたようで、このコラム、すでにかなりのボリュームになってしまいました。今回は、漠然としすぎて実感のわかない終わり方になってしまいますが、具体的なところは次回のお楽しみということで...。では、またお会いしましょう!!

杉山 崇 アゴラAGORA 言論プラットフォーム

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杉山 崇(すぎやま たかし)

杉山 崇(すぎやま たかし)

神奈川大学 人間科学部 人間科学科 教授
神奈川大学大学院 人間科学研究科人間科学専攻(臨床心理学分野演習担当教員)
専門分野:臨床心理学(心理療法・異常心理学・うつ病学), 産業社会心理学・キャリアコンサルティング, 感情・認知パーソナリティ心理学
学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。在学中から、障害児教育や犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験した。
幼稚園児から高齢者まであらゆる年代のあらゆる心の問題に立ち会ってきた雑草系臨床心理士。並行して人づきあいと心の健康の研究を行い日本学術振興会特別研究員として国費の助成を受ける。
長野大学専任講師、山梨英和大学准教授などを経て、2013年から現職。
現在は、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究を行っている。

【杉山崇の目指すもの】
心理学でみなさんがハッピーになるお手伝いをしたくて,心理学研究者/心理療法家を目指しました。
人生は,みんな一人分いただいています。
必然的に,生きていける人生と,生きていけない人生が発生します。
現代社会では,何を生きて,何を生きないか,決めるのは私たち自身です。

自分で決められる現代社会(基本的人権とかいうもの)に感謝するとともに,
自分で決めなければいけない負担も私たちは背負っています。
ここから現代的な格差が生まれてきます。

こんなことを考えていたら,いつの間にか心理療法の仕事にたどり着いて,心理学の研究者をやっていました。
人生を楽しみたおすコツ,世の中をより生きやすくするコツご一緒に探しましょう。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 コラム担当)

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