キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2025年1月号

【ゆるキャリ】第9回 もしもドラえもんがカウンセリング/キャリアコンサルティングをしたら

 今回は、私たちはどんなヒトに相談に乗ってもらいたいかについてご一緒に考えたいと思います。考えるための手がかりはキャリアコンサルティング協議会が行ったリサーチ(相談するということ実態調査2023年)です。このリサーチでは相談に乗ってほしい有名人を挙げてもらってその理由もデータとして集めています。その結果を分析したところ下の図のようにさまざまなストーリーが浮かび上がりました。

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 その一つ、赤枠部分に視点を絞ると、悩みに対して前向きに、そして親身に相談に乗ってくれるという人物像が浮かび上がってきます。この人物像、皆さんがよく知っているキャラクターに例えると、私はドラえもんが挙がるのではないかなと思います。もちろんここで言うドラえもんとは、主人公ののび太くんにとってのドラえもんの存在感ですが、実はドラえもんが愛される理由は誰もが心の奥底でこんな人が相談に乗ってくれたらいいな...、こんな存在が助けてくれたらいいな...という願いを形にしたものだからなのです。そこで、ここからはもしもドラえもんがキャリアコンサルティングをしてみたらというテーマで考えてみたいと思います。

 さて、ドラえもんは何十年も日本で親しまれている不滅のキャラクターです。主人公ののび太くんは人がいいだけがとりえで、正直、何をやっても冴えない小学生です。いつもいつも残念な思いをしています。そんなのび太くんをいろんな意味で助けてくれるのがドラえもんです。ドラえもんはのび太くんのどんなお話でも聞いてくれます。のび太くんが嬉しい時は一緒に喜び、悲しい時は一緒に泣いてくれます。そしてのび太くんが悔しい時には一緒に怒ってくれます。まるで母性の理想像のような存在感ですね。

 ところで母性という観点でみると、実はカウンセリングでは母性的な存在感が重要だと、もう100年以上も前から言われています。例えば筆者の話で恐縮ですが大学のゼミナールでカウンセリングのデモンストレーションをした時、学生から「お母さんみたい」という声が上がりました。私は決して母親を意識しながらカウンセリングをしていたわけではないのですが、やはりカウンセリングというものは必然的に母性的になるようです。もちろんカウンセリングとはそもそもが「助言・提案」をするという意味を含みますので母性的であることが全てではないのですが、人は100%自分の味方になってくれると思える相手でなければ安心して本心を話せないですよね。したがってのび太くんに対するドラえもんのようなイメージが相談においては非常に重要なのです。

 ただ、ドラえもんが絶妙なのは、のび太くんの気持ちをただ汲み取ってあげるだけではないところです。必要に応じて、のび太くんにとって嫌なことを言うときもありますし、叱ってくれることもあります。筆者にとって、このことを象徴する印象深いエピソードは「いたわりロボット」のお話です。このロボットはとても慰め上手にプログラムされています。ジャイアンやスネ夫にからかわれて傷ついたのび太くんを慰めるためにドラえもんがのび太くんに、そのロボットを与えます。狙い通りいたわりロボットはのび太くんを上手に癒してくれます。しかしまだ子供で現実感覚が薄いのび太くんは、いたわりロボットの聞き心地が良いだけの言葉に依存するようになってしまいます。そしてどんどんスポイルされていって現実と向き合わなくなってしまいます。

 ドラえもんはそんなのび太くんを見ながらだんだんと不安になり、「タイムテレビ」で未来ののび太くんをチェックします。すると、このままいたわりロボットに依存し続ける世界ののび太くんはホームレスになっていました。そして、ホームレスのび太くんにいたわりロボットはこのように語りかけます。「のびちゃんは幸せね。こうなっちゃえば火事も泥棒の心配もせずに自由に気ままに生きていけるわよ」と。そして ホームレスのび太くんは「僕は幸せだな...」とつぶやきます。さあ皆さん、どうでしょう。こうなったのび太くんは本当に幸せなのでしょうか。
 疑問にかられたドラえもんは、この「タイムテレビ」をのび太くんに見せました。これはカウンセリングで言うところの直面化や情報提供と呼ばれる支援の方法です。このドラえもんのサポートのおかげでのび太くんはいたわりロボットの言葉に依存していた自分に気づき、何かを変えようという気持ちになりました。

 このようにドラえもんの存在感は単に話を聞いてくれて気持ちを共有するだけではなくて「こうしないとやばいよ」、「こうした方がいいよ」という前向きで親身な態度もとってくれるのです 。
 このような「よいこと」「悪いこと」をはっきりされるような態度はカウンセリングの世界では父性と呼ばれています。なお、日本の臨床心理士制度の父とも言える河合隼雄先生は母性と父性のバランスをとても大事にしていました。どうやら私たちはただ単に甘えさせてくれるだけの人ではなく時には前向きで厳しいことも言ってくれる人に相談したいようです。カウンセリングも、キャリアコンサルティングも、まずは母性から始まります。ですが、父性も備えた親身さを大事にしなければいけないのです。ドラえもんを通してこのことがよくわかるのではないかと思います。では次回のコラムも楽しみにしていてください。

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杉山 崇(すぎやま たかし)

杉山 崇(すぎやま たかし)

神奈川大学 人間科学部 人間科学科 教授
神奈川大学大学院 人間科学研究科人間科学専攻(臨床心理学分野演習担当教員)
専門分野:臨床心理学(心理療法・異常心理学・うつ病学), 産業社会心理学・キャリアコンサルティング, 感情・認知パーソナリティ心理学
学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。在学中から、障害児教育や犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験した。
幼稚園児から高齢者まであらゆる年代のあらゆる心の問題に立ち会ってきた雑草系臨床心理士。並行して人づきあいと心の健康の研究を行い日本学術振興会特別研究員として国費の助成を受ける。
長野大学専任講師、山梨英和大学准教授などを経て、2013年から現職。
現在は、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究を行っている。

【杉山崇の目指すもの】
心理学でみなさんがハッピーになるお手伝いをしたくて,心理学研究者/心理療法家を目指しました。
人生は,みんな一人分いただいています。
必然的に,生きていける人生と,生きていけない人生が発生します。
現代社会では,何を生きて,何を生きないか,決めるのは私たち自身です。

自分で決められる現代社会(基本的人権とかいうもの)に感謝するとともに,
自分で決めなければいけない負担も私たちは背負っています。
ここから現代的な格差が生まれてきます。

こんなことを考えていたら,いつの間にか心理療法の仕事にたどり着いて,心理学の研究者をやっていました。
人生を楽しみたおすコツ,世の中をより生きやすくするコツご一緒に探しましょう。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 コラム担当)

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