マンスリーコラム
【ゆるキャリ】第9回 もしもドラえもんがカウンセリング/キャリアコンサルティングをしたら
今回は、私たちはどんなヒトに相談に乗ってもらいたいかについてご一緒に考えたいと思います。考えるための手がかりはキャリアコンサルティング協議会が行ったリサーチ(相談するということ実態調査2023年)です。このリサーチでは相談に乗ってほしい有名人を挙げてもらってその理由もデータとして集めています。その結果を分析したところ下の図のようにさまざまなストーリーが浮かび上がりました。
その一つ、赤枠部分に視点を絞ると、悩みに対して前向きに、そして親身に相談に乗ってくれるという人物像が浮かび上がってきます。この人物像、皆さんがよく知っているキャラクターに例えると、私はドラえもんが挙がるのではないかなと思います。もちろんここで言うドラえもんとは、主人公ののび太くんにとってのドラえもんの存在感ですが、実はドラえもんが愛される理由は誰もが心の奥底でこんな人が相談に乗ってくれたらいいな...、こんな存在が助けてくれたらいいな...という願いを形にしたものだからなのです。そこで、ここからはもしもドラえもんがキャリアコンサルティングをしてみたらというテーマで考えてみたいと思います。
さて、ドラえもんは何十年も日本で親しまれている不滅のキャラクターです。主人公ののび太くんは人がいいだけがとりえで、正直、何をやっても冴えない小学生です。いつもいつも残念な思いをしています。そんなのび太くんをいろんな意味で助けてくれるのがドラえもんです。ドラえもんはのび太くんのどんなお話でも聞いてくれます。のび太くんが嬉しい時は一緒に喜び、悲しい時は一緒に泣いてくれます。そしてのび太くんが悔しい時には一緒に怒ってくれます。まるで母性の理想像のような存在感ですね。
ところで母性という観点でみると、実はカウンセリングでは母性的な存在感が重要だと、もう100年以上も前から言われています。例えば筆者の話で恐縮ですが大学のゼミナールでカウンセリングのデモンストレーションをした時、学生から「お母さんみたい」という声が上がりました。私は決して母親を意識しながらカウンセリングをしていたわけではないのですが、やはりカウンセリングというものは必然的に母性的になるようです。もちろんカウンセリングとはそもそもが「助言・提案」をするという意味を含みますので母性的であることが全てではないのですが、人は100%自分の味方になってくれると思える相手でなければ安心して本心を話せないですよね。したがってのび太くんに対するドラえもんのようなイメージが相談においては非常に重要なのです。
ただ、ドラえもんが絶妙なのは、のび太くんの気持ちをただ汲み取ってあげるだけではないところです。必要に応じて、のび太くんにとって嫌なことを言うときもありますし、叱ってくれることもあります。筆者にとって、このことを象徴する印象深いエピソードは「いたわりロボット」のお話です。このロボットはとても慰め上手にプログラムされています。ジャイアンやスネ夫にからかわれて傷ついたのび太くんを慰めるためにドラえもんがのび太くんに、そのロボットを与えます。狙い通りいたわりロボットはのび太くんを上手に癒してくれます。しかしまだ子供で現実感覚が薄いのび太くんは、いたわりロボットの聞き心地が良いだけの言葉に依存するようになってしまいます。そしてどんどんスポイルされていって現実と向き合わなくなってしまいます。
ドラえもんはそんなのび太くんを見ながらだんだんと不安になり、「タイムテレビ」で未来ののび太くんをチェックします。すると、このままいたわりロボットに依存し続ける世界ののび太くんはホームレスになっていました。そして、ホームレスのび太くんにいたわりロボットはこのように語りかけます。「のびちゃんは幸せね。こうなっちゃえば火事も泥棒の心配もせずに自由に気ままに生きていけるわよ」と。そして ホームレスのび太くんは「僕は幸せだな...」とつぶやきます。さあ皆さん、どうでしょう。こうなったのび太くんは本当に幸せなのでしょうか。
疑問にかられたドラえもんは、この「タイムテレビ」をのび太くんに見せました。これはカウンセリングで言うところの直面化や情報提供と呼ばれる支援の方法です。このドラえもんのサポートのおかげでのび太くんはいたわりロボットの言葉に依存していた自分に気づき、何かを変えようという気持ちになりました。
このようにドラえもんの存在感は単に話を聞いてくれて気持ちを共有するだけではなくて「こうしないとやばいよ」、「こうした方がいいよ」という前向きで親身な態度もとってくれるのです 。
このような「よいこと」「悪いこと」をはっきりされるような態度はカウンセリングの世界では父性と呼ばれています。なお、日本の臨床心理士制度の父とも言える河合隼雄先生は母性と父性のバランスをとても大事にしていました。どうやら私たちはただ単に甘えさせてくれるだけの人ではなく時には前向きで厳しいことも言ってくれる人に相談したいようです。カウンセリングも、キャリアコンサルティングも、まずは母性から始まります。ですが、父性も備えた親身さを大事にしなければいけないのです。ドラえもんを通してこのことがよくわかるのではないかと思います。では次回のコラムも楽しみにしていてください。
杉山 崇 さあ、あなたの物語を整えよう mi-mollet(ミモレ)
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