キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2025年3月号

【ゆるキャリ】第11回 「相談するなら"人生経験が豊富な人"」だが、「経験」とは何を意味するの?①

■バブル末期の東京都内にて

 さて、突然ですが、筆者のキャリア初期の話をさせてください。
筆者の学生時代はいわゆる日本経済のバブル末期。筆者は東京都内の大学に通っていましたが、都内では学問よりビジネスを尊敬、尊重する文化が漂っていました。そのせいか、当時は学生の起業がちょっとした流行になった時代でした。
そのムーブメントに乗って成功した方としてはホリエモンこと堀江貴文さんが有名でしょうか。もっとも、成功した人はごく僅かで、中にはネズミ講まがいの怪しげな起業支援ビジネスに乗せられて借金を作って終わった方もいたのですが...。いやはや、混沌とした時代でした。

■最底辺だから見える景色

 筆者の周りにも「起業」にのめり込んだ友人がたくさんいました。ただ、筆者は「ビジネスマンとしての成功」やビッグマネーに憧れるタイプでもなく、「人生をかけたい!!」と思えるようなビジネスモデルも持っていませんでした。なので、そのムーブメントに積極的に参加する友人たちを「斜め横」くらいから見ていました。
とは言え、やはり刺激は受けるものです。大学という狭い世界にいても視野は広がらない...とも感じました。そこで「社会の最底辺」という「有利なポジション」を利用して、「バイト」という形でいろんな世界に片足を突っ込みまくりました。
ちなみに、筆者はほとんどの職場で上司や同僚から「大学はドロップ・アウトしたんだよね」と見られていました。相当、出来が悪そうに見えていたようです。いや、実際出来が悪い学生だったのですが...。
それでも、出来が悪い学生なりに、最底辺から見る世界はしんどいながらも興味深い景色が多かったです。社会の表と裏を肌で感じられたのも貴重な経験でした。あ、もちろん、非合法なことはしていません。誤解しないでくださいね(笑)。

■相談したい有名人のアンケートから

 ここで、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会が行ったアンケートの結果を紹介したいと思います(相談するということ実態調査2023年)。下の図は「キャリアを相談したい有名人」についてのアンケートの一部なのですが、相談したいと思った理由をテキストマイニングしたものです。この中で、「人生」―「経験」―「豊富」という赤枠で囲った「島」を見てください。

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 キーワードを囲った◯のサイズは、この言葉が使われた頻度を表しています。この島、他のキーワードと比べて◯のサイズが大きいことがおわかりいただけると思います。つまり、回答してくれた方々の多くが、「相談するなら"人生経験が豊かな人"」と思っていることがわかります。

■C.ユングが考察した「老賢者」

 確かに経験が豊かな人は私たちに安心感を与えてくれます。そして、この安心感は理屈ではなく、本能的な感性として私たちが実感しているもののようです。
例えば、C.ユングによる「元型(Archetype:"人として生きる"という営みの中で遭遇する、または必要とする存在のイメージ)」の考察では、「老賢者(Old Wise Man)」という元型が論じられています。老賢者とはまさに経験豊富な方のことです。そして、私たちは老賢者に導かれることで、「然るべき道」を行けるという安心感を得られるとされています。紹介したアンケートの結果は、私にはこのことを反映しているように見えました。

■求められているのは、華々しいとは言い難い苦悩の経験?
 
 しかし、ここで言う「経験」とは一体何なのでしょうか?どのような「経験」を持っている方が老賢者として機能できるのでしょうか?
 そのヒントは他のキーワードの島の中にありそうです。他の島を眺めていると、まずわかってくるのは「社会的に高く評価される世界で活躍してきた華々しい経験」は「違う」のだろうな...ということです。このような経験を示唆するようなキーワードは少なくとも筆者には見つけられませんでした。
逆に、散りばめられたキーワードを眺めながら、筆者の脳裏に浮かんだものがありました。それが、冒頭でご紹介した筆者のキャリア初期の「経験」でした。筆者のキャリア初期の経験は社会の最底辺としての経験ですので、多くの場面で「履歴書」に書いても評価はしていただけないでしょう。筆者も積極的には公表もしません。しかし、筆者の30年以上のカウンセラー/コンサルタントとしての支えになっています。
相談したい人の多くは、要は視野を広げてくれることを求めているようです。具体的なキーワードとしては、「幅広い」、「広い」、「苦労」などが挙げられますが、「華々しいとは言い難い苦悩の経験」とそれがもたらす視野の広さを、相談したい人は求めているようです。
次回は具体的に挙がった方々が実際どのような経験をしてきているのかを通して、「相談したい人」に求められているものを更に深掘りしたいと思います。お楽しみに!!

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杉山 崇(すぎやま たかし)

杉山 崇(すぎやま たかし)

神奈川大学 人間科学部 人間科学科 教授
神奈川大学大学院 人間科学研究科人間科学専攻(臨床心理学分野演習担当教員)
専門分野:臨床心理学(心理療法・異常心理学・うつ病学), 産業社会心理学・キャリアコンサルティング, 感情・認知パーソナリティ心理学
学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。在学中から、障害児教育や犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験した。
幼稚園児から高齢者まであらゆる年代のあらゆる心の問題に立ち会ってきた雑草系臨床心理士。並行して人づきあいと心の健康の研究を行い日本学術振興会特別研究員として国費の助成を受ける。
長野大学専任講師、山梨英和大学准教授などを経て、2013年から現職。
現在は、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究を行っている。

【杉山崇の目指すもの】
心理学でみなさんがハッピーになるお手伝いをしたくて,心理学研究者/心理療法家を目指しました。
人生は,みんな一人分いただいています。
必然的に,生きていける人生と,生きていけない人生が発生します。
現代社会では,何を生きて,何を生きないか,決めるのは私たち自身です。

自分で決められる現代社会(基本的人権とかいうもの)に感謝するとともに,
自分で決めなければいけない負担も私たちは背負っています。
ここから現代的な格差が生まれてきます。

こんなことを考えていたら,いつの間にか心理療法の仕事にたどり着いて,心理学の研究者をやっていました。
人生を楽しみたおすコツ,世の中をより生きやすくするコツご一緒に探しましょう。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 コラム担当)

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